ヴァレンタイン
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この日は、誰にとっても意味のある日。
でも僕にとってはそれ以上に意味がある日。
「おはよう瀬戸君!今日何の日かわかる?」
早々、紫苑に聞かれた。
ちなみにこれは二択である。
付き合った記念日か、バレンタインか。
「記念日とか?」
「不正解ヴァレンタインでしたー!」
無理じゃん。
「バレンタインの言い方ちょっと腹立つ」
「今日は私をちゃーんと労ってね!」
あれ、バレンタインって、僕もらう側じゃなかったっけ?
学校では、有志の女子によるチョコバラマキ大会が開かれていた。
「拙者も欲しいでござる!」
と叫んでいる奴はもらえずじまいだったけど。
08:20
白川紫苑、教室へ1秒上陸ーーーーーー
35人死亡
紫苑はちゃんと多くのチョコを用意していた。
ただし、5円チョコ。
紫苑曰く
「私から貰えるだけで何千万という価値があるんだからこれで十分でしょ」
とか。
「ほらほら、チョコ欲しい人は並んでね〜」
と言ってる間に、全部取られてた。
「瀬戸の分はねぇからな」
と言われたけど、多分ある。
ごめんね。
なんか須藤もありがたく貰ってるし。
「瀬戸君のは、放課後、然るべき場所であげるからね」
「別に焦ってないよ」
「てことで、放課後ちょっと待っててね」
そう言われて下駄箱で待っていると、紫苑が現れた。
僕が出ようとすると、手で制された。
「あの、俺、いや、僕、あの、白川先輩が好きです!」
おーっとっとー。後輩か。
「何で好きなのかな?」
「白川先輩は可愛いし、それに、ミスコンのとき、一目惚れしたんです」
「それは嬉しいけど、それは私であって私じゃないよ」
え?という顔を浮かべる後輩君。
「人はね、絶対に表裏があるの。社会に向ける顔と、自分と自分の大事な人にしか向けない顔。社会に向ける顔は、いつも正しくないと行けないの。正論ってこと。それはわかる?」
「はい……」
「私は私しか知らない面がある。それを見破れたら、君は私を知ったことになる。でも、君は私の正論しか知らない。これから仲良くなって、私を知るといいよ」
「あの、じゃあ、友達からで……」
「うん、いいよ」
そう言って紫苑がニッコリ答えると、連絡先を交換して帰っていった。
「それで、ホントにお友達する気かよ」
すると、紫苑が鼻で笑った。
「そんなわけ無いでしょ。興味ないよ。不快とかはないけど、私にメリットないし」
損得感情で生きてるのが紫苑らしい。
それに、いつもそうやって損得感情で生きて、何かしくじるのまでが紫苑らしくて哀れで可愛いんだ。
「それじゃ、約束の大地に行こっか」
「何?なんかまた違うゲーム始めた?」
そんなくだらないことを言いながら僕は、紫苑にされるがまま引っ張られるがまま連れて行かれた。
電車に乗って移動してきたのは、公園だった。
あの、付き合った記念の場所。
紫苑にしてはロマンチック。
そういうの嫌いそうだし、意外だった。
「これ、僕から」
散歩しているとき、僕から渡した。
紫苑は実は、雰囲気とかにこだわらない。
風邪の時に紫苑が言ってたとおり、紫苑は普通が好きだから。
「ありがと」
そう言うと、何か鞄から取り出し始めた。
「私からはとりあえず、これ。チョコ」
ハート型だった。
「らしくないね」
そう言うと紫苑は、はにかむように笑って、照れ隠しするみたいに歩いた。
「私さ、普通になりたいって言ったの、覚えてる?」
「うん」
ついこないだの話だからね。
「プレゼントっていうか、記念っていうか。何あげようか、迷ったの。瀬戸君は私に、ネックレスっていう【完璧】なプレゼントをくれた」
「それはよかったよ」
「私思うの。私が上げるプレゼントは、瀬戸君の完璧を超えないといけないって」
「別にそんなこと……」
「ただ【完璧】なだけじゃ人って満足しないの。成功に必要なのは【絶対なる完璧】だと思う」
「だから、私から上げられるモノはない」
「え?」
「え?」
別に期待してたとかじゃないけど、この話の流れで、特別すごい何か、普通に嬉しい何かをくれるのかと思ってた。
「だからね、私は瀬戸君にずっと、未来をあげる。瀬戸君は私が通った道をついてくればいい。私が間違ったら、私とは違う道に来ればいい。これからずっと私が一緒で、私が前にいることを保証してあげる」
「普通に嬉しいけど、僕のお兄ちゃんにでもなったつもり?」
そう言うとネタが通って嬉しかったのか、ちょっと笑っていた。
それから僕のプレゼントを開けて、結局キーケースが出てきて嬉しそうだった。
ちなみに紫苑、自分の家の鍵を無くした前科がある。
まぁ、これから全部直していけばいい。
それでもきっとこれからするのは、同じことの繰り返し。
こうやって今年も去年と同じことをして、来年は今年と同じことをして。
でもそれが、普通で一番いい。
紫苑もそう言ってるし。
だからきっと僕達は、何も変わらない。
これは特別な人間が、自分の世界を作って、自分らしく生きて、普通になっていく物語だ。
※間に合いました。遅くなって申し訳ありません
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