僕たちはどう生きるか

 諸君は、人生が詰んだと思ったタイミングはあるだろうか。


 テストの点が悪かったり、盛大にやらかしたりと、人は様々な失敗だったり黒歴史を持っていたりする。


 ただそれのどれも、大抵は詰んでいない。

 すぐに解決したり、怒られて終わったりするだけ。


 だけど僕は今、人生最大に人生最大のピンチを迎えていた。




「おい瀬戸!」

「お前、ふざけんなよ!」

「どういうことか説明しろよ!」

 そんな怒号が飛び交う中、テヘペロなんてしている紫苑にイラつく僕。

 とんでもないミスをしてくれやがった。あのクソ美少女。

「知らないよ!僕に聞くなよ!」

「知らないってどういうことだよ!」

「白川の気持ちなんて僕がどう説明するんだよ」

「でもお前、白川さんの言い方からして、お前も白川さんの気持ち知ってただろうがよ」

 詰んだ。

 何を言ってもダメ。

 むしろ火に油を注ぐだけ。

 こんなこと思ってる今でも、僕の後ろでは怒号が飛び交ってるし。

「お前そういえば、一緒に登校してきてたよな?」

 その一人の発言から、さらに追求は深まっていった。

 もう、どーにでもなれ〜〜〜。

 正直、天を仰いで唯我独尊したい気分。

 開き直るって、気持ちいいー!

 このまま窓の外へダイブしても浮けるんじゃなかな。

 救いのチャイムまであと5分。

 耐えれる可能性は0。

「ちょっとみんな、静かにしてよ」

 特段大きくもない声で言う紫苑の声で、一斉に振り返るクラス全員。

 まるでダチョウ。

 ダチョウの頭が悪すぎる。

「どうして瀬戸君なんだとか言ってる奴、とりあえず卒業するまで私に口効かないでくれる?」

 ニコニコしてる。

 逆に怖い。

 いつも出来てるパーフェクトの作り笑いが消えてるから。

「でも……」

「でもじゃない。人の好きな人をバカにする人を好きになるわけないでしょ」

 そう言うと、一斉に黙った。

 やっぱりダチョウだろ。

 一人が走り出すとみんな走るし、誰も走ってる理由わからない的な。

「あのさ、私のことが好きって言ってくれてる人達は、なんで私の考えが尊重できないの?なんで私が選んだ人を信じられないの?私のこと、好きなんでしょ?」

「それは、俺達には瀬戸の何がいいのかわからないし……」

「自分の方が瀬戸君より良いですってこと?それは私が好きなんじゃなくて私の隣に立ってる自分が好きなんでしょ。それは私のこと好きって言わないよ」

 紫苑が戦ってくれてい横で一人、棒立ちする僕。皆の意見がちょっと納得出来る。

 僕だって僕の何がいいかわかってないし。



 それから学校での僕の対応は、明らかに2択に別れた。


 紫苑と仲良くなりたくて近寄ってくる人。

 敵対視して何かと睨みつけてくる人。


「とうとう言ってやったね!」

 そんな僕を差し置いて満面の笑みで話しかけてくる紫苑。

「とうとう言ってやったね!じゃないよ。おかげで僕の立場は散々。その変に捨てられてるゴミクズを見る目か、パンダを触りたくて飼育員の僕にゴマすってくる客の目か」

 立場の話でいうと元々散々だったけど。

「パンダって誰?」

「なんでもないよ」

「私のこと?」

「そうな」

 マスコット的存在だし、似たようなモノだろ。

「ところで、昼休みに堂々と一緒にお弁当食べてる今って、皆からどう見られてると思う?」

 四面楚歌。

 救い無し。

 地獄絵図。

 これが僕の今の状況。

 お昼ご飯食べてるだけなのに。

「多分、僕のこと死ねばいいのにって思ってると思うよ。それか、親の仇みたいな怨念ぶつけて見てると思う」

「私じゃなくて瀬戸君にヘイト向くのはよくわかんないけどね」

 確かに言われてみれば、僕を選んだ紫苑に怒ればいいのに、僕に対して怒ってるのはよくわからない。

 あ、嫉妬か。

「とりあえず、僕まだ殺されたくないから紫苑はあっちで普段どおり友達と食べてくれない?」

「え、やだ」

「なんでだよ」

「瀬戸君が睨まれてるの見るの、楽しいもん」

 最低だ、紫苑って。


 それで僕達が下校するときも、寄り道するときも、アイス食べてるときも追っかけ回された。

 正直疲れた。

 別に優越感があるわけでもないし無いわけでもない。

 ただただ、ずっと見張られて疲れるだけ。

 僕、どうやって生きたらいいんだろ。

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