番外編 とある日の白川紫苑
「白川さんおはよ〜」
つまらない。
退屈。
虚空。
なんでこの子達、生きてるんだろ。
「今日の体育水泳らしいよ、ダルくない?」
ダルいって言って、何か変わるのかな。そう言うことがステータスみたいになってる同級生が、心底嫌になる。だからって、たかが一年先に生まれたからって高圧的な態度を取ってくるバカな上級生も、反吐が出るほど嫌い。
「ダルいね〜、日焼け止めクリーム死ぬほど塗りたくってきたし」
「あの真面目な白川さんでもそういうことするんだ!意外!」
私のこと、何だと思ってるんだろ。
「勉強が出来るだけで、別に真面目なんかじゃないし」
そう、私は真面目なんかじゃない。人生、不真面目に生きてる。
この頃、私の周りがやけにバカに思えてきた。中学2年生というこの環境が原因かもしれないけど、それでもこれでも、バカにも程がある。
「ラジオ体操、始め!」
手を伸ばしつつ、膝を折る。
こんな単純な作業さえマトモにやらない、真面目な癖に不真面目なフリをしてる奴ら。
反対レーンのどこを見ても目が合う、盛り始めた男子達。
それを噂話として中心に立って話すことで、自分の地位を確立しようとする女子達。
私にも勝てない癖に、勉強においては天才という自己を演じてるバカ。
みんな、バカだ。
バカで馬鹿で仕方がない。
だってほら、みんな自分がバカだなんて露にも思っちゃぁいない。馬鹿を演じ続けてる私も、バカなのだけれど、ね。
「白川さん、男子にめっちゃ見られてたよ。やっぱり可愛いからね」
ラジオ体操終わり。プールに足だけ入れてバタバタさせてる途中に横の子がそんなことを言ってきた。
そんなことないよ!って言ってほしいんでしょ。
「そんなことないよ!そっちこそ、私なんかより可愛いよ」
事実。だって私は、中身が終わってるから。可愛くなんてない。誰からも、愛されることないんてない。拗らせてんな、私。
「白川さんって、成績もいいよね」
「そりゃ先生にもあれだけ媚び売ってるからね」
「え!?あの子そんなことしてたの!?」
「でもでも、一回だけ受けた模試も、このあたりの塾で1位だったらしいから、実力なんじゃない?」
「いいなぁ、天才って」
廊下を歩いてると、誰か、私の話をしていた。特段友達と呼べるほどの人間がいない私は、基本一人。のはずなんだけど、皆が皆、休み時間になると寄ってくる。媚び売ってるのはどっちだよ。
「白川さんって、可愛くて性格も良くて、それでいて勉強も出来て運動神経もいい。何か駄目なとこ、あるのかな?」
「でもこの前、こっぴどく振られたってうちのクラスの男子が言ってたよ」
「え、じゃあ実は私達のこと見下してたり?」
「あるある。やっぱり性格悪いかもね」
くだらない、くだらない、くだらない。
そう思いながらも私はどうして、気づけば突っかかっていた。
「憶測で勝手に性格悪いなんて言うの、辞めてもらえるかな?」
性格悪いの、事実なのに。何言ってんだろ。
「あ、白川さん、聞こえてたんだ」
「聞こえてたか聞こえてなかったかが問題じゃ、ないし。憶測で勝手に性格悪いなんて言うの、辞めてもらえるかな?」
「ごめんなさい」
「わかればいいんだよ!こっちこそ、突っかかってごめんね!」
ニコッと笑って、気分良くなって、その場を後にする。そのまま本来の目的地であるトイレに入って、私の顔を見てビックリした。
「顔、笑ってないじゃん」
ひっどい作り笑顔が、そこにはあった。キモい。まるで目が、笑っていないし。
「本気で幸せなときを想像すれば、笑えるかも?」
口に出したもののそもそも、幸せってなんだろ。
気の合う男の子とデートして、私が彼をからかって、笑って過ごしくれる。それでいて彼は私の全てを愛してくれる。
そんな時間?
あ、意外にも自分が異性に興味があったのに驚いた。なら私にも、性欲とかあるんだ。皆が話してるそういう話題には、混ざろうとも思わないけど。
とりあえずそういうシーンを想像して見る。
薄く笑ってる自分が、目の前に写ってる。
なんて幸の薄そうな顔なんだろ。
普段のニコニコ社交性マックス紫苑ちゃんの方がよっぽど幸せそう。
そっちで行くか。
「声出していこー!」
「はへー」
部活。暑すぎワロタ。キャプテンは元気根気岩木。
「白川さんがダレてるって、珍しいね」
うるさい岩木。
「そうでもないですよ」
「スマートな人だと思ってた」
「多分、本来はその認識の方が間違ってますよ」
横の野球部、暑そうだな〜。なんて思いながら耳に惰音を流し込んだ。
「白川さん、野球部に好きな人でもいるの?」
「いません。人間が嫌いなので」
なんて明るい紫苑ちゃんはいいません!
「どうですかね〜。私、男の子にあんまり興味ないんですよ!」
ホッとしたような表情を岩木が見せる。ははぁ〜ん。
「白川先輩、私に教えてくれませんか?」
可愛い新入生が、会話の腰をおって話しかけてくる。答えてあげるのが世の情け。
「いいよ。何がわかんないの?」
「ルールあんまり覚えてられなくて。ランナー2塁で左中間に飛んだとき、センターかレフト、どっちがとった方がいいんですか?」
「レフトだよ。理由は姿勢的に取りやすいから」
勉強熱心な子。結構可愛い私のお気に入りの後輩。気が強くて、人生がよく見えてそうで。それに、自分が自分であるということにプライドを持ってる。この子は多分、賢い。
「わかった?」
「ありがとうございます!」
あんな子が私をがっかりさせるなんてこと多分、ないだろう。そんなことがあれば私だって多少、傷つくかもしれない。いや、つかないか。所詮どうでもいいもの。
家に帰ってベットで一人。学校でも一人。私はずっと、一人。ボッチなわけじゃない。一人が好きなだけ。私の意思を曲げてまで他の子に合わせる必要が無いだけ。
「成績も優秀で自己をしっかり認識してる子です」
学校の三者面談ではだいたいそう言われる。でも、先生達にも裏で「あいつはそれでも、言うことを聞かない」と言われてることも知ってる。変な不良よりよっぽど扱いにくい、って。
なら、ホンモノの美少女なら、先生の犬になる?
ならない。
それは美少女なんかじゃない。
美犬。
人の言うことを鵜呑みにしたからって、幸せになれない。
私が幸せになりたいって感じてること自体意外だけど、でも、However,それが人間の本質。
いつか必ずやってくる死までに、どれだけの準備が出来るか。それが生というモノだって、私は思う。
ただの厨二病?
それもそうかも。
それでもこれでも、その為に懸命に今を生きてるから、厨二病だなんてことで、片付けられない。
かつてアインシュタインは神は存在しないって言った。
それでも彼は、別に私は無神論者ではないと言い張った。
私には言いたいことがわかる。
神は人間が弱い感情から作り出したモノなんだ。
だから、存在しないけど、存在する。
これで何が言いたいかって、死にたいけど死にたくない私は矛盾していない。
ただ幸せを感じたいから。
いつか私が、幸せになる未来が訪れますように。
弱い自分の心にそう、祈った。
あとどれぐらいの日々を、こうして祈っていればいいのだろう。
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