美少女≠古風
ゴールデンウィーク3日目になった。
昨日は特段何かをすることもなく、強いて言うなら湯葉チーズを食べに行ったことぐらいで、それ以外は二人で室内で遊んでいた。
「昨日の続きのバトミントンと卓球、どっちがいい?」
そう聞かれたから卓球と答えると、地獄を見た。
運動神経がミジンコ程度の僕じゃ紫苑の相手にならなかった。
「私に勝とうだなんて10年早いよ!」
10年後でも勝てる自信は全くない。
「手加減してくれよ」
「私、手抜いたことないんで」
そういえば学校でも常にフルパワーだった。
常にフルパワーで生きられる生命力が羨ましい。
流石、完璧美少女をこなせるだけあった。
それにしても、5日と言った紫苑もいよいよやる事がなくなったらしく、今日はとうとう竹林に来ていた。
僕達は逆を張って、敢えて竹林には来ないようにしてたけど、我慢できなかった。
でも、紫苑が持ち出した案の「限界まで渡月橋往復したら何往復出来るかチャレンジ」よりマシだと思った。
「竹林って、ホントに竹林以外の何物でもないね」
僕が竹林を見ながらゴールデンウィークに入る前の僕の家の出来事を思い起こしていると、紫苑が口を開いた。
「なんでここ、そんな有名なんだろ」
「竹林だからだと思うよ」
「虚無だな」
「ニヒリスティック?」
「何事も言い換えると賢く聞こえるらしいよ」
「じゃあ私今、賢く見える?」
紫苑の顔を見る。
残念ながらこの、自信満々の笑顔は賢そうには見えなかった。
ただ、自分のことを本気で賢いと思ってそうで、哀れだとは思った。
「見えないな」
「最低」
横からぶつかってきた。
「この竹林抜けたあと、どうする?」
「やっぱり私の案の渡月橋何往復出来るか……」
「それはない」
途中で遮る。
「なら、あの舟乗ろうよ。私、乗ってみたい」
僕達は舟の乗り場を探して、他の知らない人何人かと乗り込んだ。
「この水飲める?」
多分思った以上に何もなくて暇だから、僕に聞いているのだろう。
「飲めないよ。色ヤバいし」
「舟って、なんかテンションあがるよね。踊りたい」
「何踊るのさ」
「ランニングマンとか?」
懐かしい。舟の上でランニングマンを踊る紫苑を想像してちょっと笑った。
「古いよ、それ」
「いいじゃんランニングマン。私好きだよ。前に進もうとしてるのにその場に留まってるのが現実みたいで皮肉きいてるじゃん」
「誰もそんな風にランニングマンのこと見てないよ」
実際、この会話を聞いた年上の、そう、大学生ぐらいの女の人がびっくりしたようにこっちを向いていた。
なんだか僕のほうが、恥ずかしい。
「いつか、二人で乗ってみたいね」
「そうな」
もっと恥ずかしい話題が来て、照れた。
もう一回前の女の人達に振り向かれたから、4倍恥ずかしかった。
「アントゲームしようよ」
観光スポットというか町中というかをフラフラ歩いていると、紫苑がゲームを持ち出してきた。
まるで聞いたことがない。
「蟻ゲーム?」
「違うよ」
「じゃあ何さ、そのイカゲームみたいな名前のゲーム」
小バカにしたように紫苑が笑った。
「アントニウムってわかんない?」
化学物質にもそんなのなかったから、思い当たる節がない。
「わからない」
「対義語って意味なんだけど」
「ならそう言えよ!」
そう言うと紫苑は、あはは!と笑った。
こいつ、わざとだな。
「わざとじゃないよ」
思考が読まれている!?まずい
「何がまずい。言ってみろ」
「どうでもいいから、そのゲーム教えてよ」
「あ、はい」
そう言うと、紫苑は空に絵を描くみたいに空中で円を描き始めた。
「そのままのゲームで、お題に対する対義語を言うの。それがふさわしい!ってお互いが賛成したら、それに決定」
勝ち負けがなさそうで安心した。
負けたら罰ゲームとかしそうなのが紫苑だから。
いや、運動部とかは大体してそうか。
紫苑は帰宅部だけど。
「わかったよ。じゃあ、早速やろうよ」
「お!珍しくノリがいいね」
気づけば結局、渡月橋を渡っている中、紫苑が空を見上げるのを区切りに、ゲームが始まった。
「空」
「地面しかないと思うけど」
「そんなことないよ。海かもしれない」
確かに。もしかして、このゲーム、結構奥深いんじゃないか。
「意外と難しいね」
「でしょ!価値観出るよ」
面白そうだから続けることにした。
「海」
「これは陸」
「不思議だよね、空の対義語で海は出るのに、海の対義語では陸の方がイメージ強いんだから」
紫苑がお題を出すのを待った。
僕もかなり乗り気。
「白」
「この場合なら、紫じゃない?」
「あ、私か」
紫苑が照れたように顔を赤くする。
それを紛らわせるために「君〜、私のこと好きすぎるよ〜」とクネクネする紫苑を軽く無視する。
「でも、そう言ってくれて嬉しいよ」
紫苑が笑顔で言う。
なんだか紫苑が、この回答を待っていたように見えた。
「じゃあ、現実の対義語は?」
「一気に難しくなったね」
「私も一緒に考えるよ」
桂川を眺める紫苑の目線の先を、僕も追う。二人揃って川を見てるから、沈黙が続いた。
「死、かな」
僕が先に口を開いた。
「つまり、死ねば全部、夢、だってこと?」
「夢って、現実の中で見てるじゃん」
「そうだね」
「死ねば、現実を感じることもないから、そう思った」
「難しいこと言うね。珍しく」
「珍しくが余計だよ」
気づけば家の近くまで戻ってきていたから、そのまま家に入った。
「あ、そうだ、アボカドの対義語も聞いておくよ」
ニヤニヤしながら言ってきた。
「ごぼうでしょ」
そう言うと、紫苑は何がおかしいのかゲラゲラ笑っていた。
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