オカルトテック 霊力発電株式会社

桜梨

霊力発電株式会社-1

「うん、そうそう。霊素れいその注入、もうちょっと増やして。

ちょっとだけね。うん、それで良いよ」


十和田とわださんの指示に従い、あたしは、霊素液カラムのコックをわずかにひねった。


「おお、100キロワットに達したか。悪くない。

期待通りの出力が出たけど…。うーん、何分続けられるかな」


メーターを凝視しながら、眉間にしわを寄せて呟く十和田さん。


年季の入ったオフィスビル、いや、雑居ビルか。

雑居ビルの一室に実験ベンチと機材を持ち込んで、あたし達は、実験を繰り返している。

事務所として使われる前提の部屋で、こういう実験をしても法令上問題が無いのだろうか。バイト学生のあたしには、分からない。


あたし達が操作しているのは、実験ベンチの上に置かれた、新型霊素発電機の試作品。

電子レンジくらいの大きさだけど、一般家庭の電力を賄うには充分な出力が出せるらしい。

十和田さんによると、電気自動車だって余裕で走らせられるそうだ。

しかも、CO2も放射線も出さないし、爆発する危険も無い、完全に理想的なシステム。


ただ、その動力源として使用しているのが、オカルト的なエネルギー、霊素だ。

知らない人には、完全に怪しい新興宗教のように聞こえるだろう。


霊素とは、ここにいる十和田さんの造語である。

悪霊だの怨霊だのを集めて精製して作られる物質だそうだ。

その性質は気体に似ているが、特殊な処理を行う事で、液状に変化する。今あたしが扱っている霊素液が、それだ。インクのように黒くて、ドロリとしている。霊素液は空気に触れると、徐々に気化するので、密閉した装置の中で取り扱わねばならない。


こう説明してみると、如何いかにも疑似科学のように聞こえるが、実際、目の前の発電機からは、高出力で電気が産み出されている。紛れもなく科学なのだ。


その時、実験室のドアが開いた。


「ただいまあ。どう?実験の方は」


ドアを開けて入って来たのは、ガネーシャ善光寺さん。

色白で、象みたいに大きな体格の熟年女性。縦よりも横に大きいので、象というよりカバに似ている。

もちろん、ガネーシャなんて、本名じゃない。

今日は、ダブッとした、どこかの民族衣装みたいなのを着ている。

占い師だか霊能者だか、とにかく、そういう商売が本業の人。

けっこう忙しいみたい。

ガネーシャさんは、十和田さんと一緒に、この霊力発電株式会社を経営している。

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