決戦

  ヨハン王率いる国軍とローゼンベルク領の軍との戦いは3ヶ月ほどで決着が付いた。ヨハンに味方する貴族は多かったがそれ以上に改革によって領地の力を付けていたローゼンベルク側が地力で上回り、ヨハンの軍隊を初戦で撃退。ローゼンベルク側は元々援助をしていた貴族達も加わってさらに勢いを増し、王都を攻め落とした。


 勝利したレイラはヨハン及び王族をすべて死刑にし、ネールランド王家を滅ぼした。そしてローゼンベルク王国の建国を宣言し、初代女王として戴冠する。


 なおネールランド王国を滅亡に追いやったヨハンは処刑される最後まで自分の暴君ぶりを決して反省せず、ローゼンベルクのトップてあるレイラやその協力者を責めて、情けなく喚き散らしていた。


 そのため元々因縁があり罵倒の対象となったレイラはもちろん王妃であったゾフィーすら呆れ果てていたという。


 元々王国の中でもっとも力を持っていたローゼンベルク家に逆らう家はなく、レイラが政治の実権を握るのに大きな混乱は起きなかった。



 女王となった私は将来来るであろう魔族の襲来に備えてひたすら経済の拡大と軍事力の増加に力を注いだ。ついで領主に分権化していた権限も中央から官吏を派遣し、領地経営を任せることで実権を掌握。これには反発も出るかと思ったがローゼンベルク領の発展を見ていた貴族達はそのやり方を取り入れたいとあっさり実権をこちらに渡した、どうもほとんどの領地が経営がうまくいっていなかったようでこちらに任せたかったようだ。


 ヨハンに味方をした家はすべて取り潰して反乱の目も摘み取ったため、私の治世はいまのところ安定している。民達も今のところ、私には好意的だ。ヨハン王の政策でネールランド王家が直接支配していた地域の民は増税などで思った以上に負担を強いられていた。そのため彼らの税負担を軽減するなどして不満を減らして、領地の経営が円満に行えるよう細心の注意を払った。


 そうして権力基盤を盤石にした私は魔族の大量侵攻に備えて準備を整えていったーー。



「敵襲、敵襲ー!」


 伝令の兵士の声が響き渡る。


「前方より大量の魔物がこちらに迫ってきているのを確認」


「撤退のほうはどうなっているの?」


 兵士の報告を受けて私は確認する。


「はい、現在王都に向けて撤退中とのこと。まもなく全軍が王都に撤退完了予定です」


「わかったわ。それじゃ城壁に用意した魔法兵器の用意をして頂戴」


 私の指示を受けた兵士が頭を下げ、今受けた指示を伝えるために足早に去っていく。その兵士と入れ替わりにアーノルドが側にやってきた。彼は先のローゼンベルクが起こした革命の際の功績で伯爵の爵位を授与されており、今や立派な貴族だ。


「陛下」


「アーノルド」


私の横に立つと彼は静かな声で私に問いかける。


「怖いですか」


「怖い? 私が怖がっているように見えるの?」


「ええ、だって手が震えていますから」


「えっ……」


 彼に指摘されて私は自分の手を見た、本当に震えている。


「情けないわね、こんな大事な時に女王たる私が震えているなんて」


「そんなことはないですよ、誰だってあの魔族の数を見たら震え上がります」


 自嘲気味に呟いた私に彼は歩みより手を握る。


「私があなたの恐れの原因であるあの魔族達を取り除きます。だからあなたは安心してここで待っていてください。だからご命令を、あの魔族達を討伐せよと」


「ありがとう。……では、女王として命じましょう」


 そうして私は居住まいを正し、女王として彼に命じる。手の震えはもう止まっていた。


「アルバート伯爵、我が剣としてあの魔族達を討ち滅ぼしなさい! 我が王国の未来をあなたの剣で切り開くのです!」


「はっ!」


 そう言って彼は魔族を討伐すべく戦場に赴く。そして私は女王として国を、何より皆を守る責務を果たすために彼に背を向けて私の戦場へ向かった。

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