令嬢レイラの奮闘記〜婚約破棄された悪役令嬢は破滅の未来を回避するために頑張る〜
司馬波 風太郎
婚約破棄
「レイラ・ローゼンベルク、貴様との婚約を破棄する!」
学園のパーティで放たれたその言葉を聞いた時、私は冷静に問い返した。
「お待ちください、ヨハン殿下。なぜそのようなことをおっしゃるのですか? このような祝いの場でそんなことを言えばあなたの品位に関わると思いますが」
「黙れ! お前は将来の王となるこの俺にことあるごとに意見し、俺の行動を邪魔してきた。先程の発言のようにな。そのような性格が俺の婚約者としてふさわしくないと言ったのだ」
聞いていても我儘としか言えない言い分をネールランド王国第一王子であるヨハンは並べ立てた後、
「よって貴様との婚約を破棄し、このゾフィー伯爵令嬢との婚約をここに宣言する。ゾフィーこちらへ」
力強く新たな婚約を公衆の前で宣言した。そのヨハンの宣言と同時に彼の隣に現れた少女は困り果てた表情をして彼の隣に立つ。
彼女はゾフィー・アーライム。アーライム伯爵家の娘で私の友人でもある。穏やかで誰とでも分け隔てなく接する善良な人柄で皆から慕われている。おまけに容姿も私のように冷たい印象を与えるようなものではなく年齢より少し幼く見える可愛いものであるため、よりその性格を魅力的に引き立てていた。
「ゾフィー……あなた」
「レイラさん、私……」
ゾフィーは私に何かを言おうとしたが、下を向いて黙りこんでしまう。どうやら彼女もこの俺様殿下に無理に付き合わされているようだ。
しかし、ここまで私に対して遠慮なく新しい婚約者を堂々と紹介するならこちらももう遠慮はいらないだろう。
「……殿下、先程の宣言は言葉通りに受け取って構わないのですね」
「くどい、何度も言わせるな。 このゾフィー嬢のような慎ましやかで相手への慈しみを忘れない者こそ俺の伴侶としてふさわしい」
私の言葉に迷うことなく言葉を返すヨハン。その様子を見た私はもうここにいることの必要性が感じられず、馬鹿な俺様王子に向かって決別の言葉を伝える。
「分かりました、殿下がそうおっしゃるのであれば私との婚約は破棄ということで。 私は公爵家の領地に戻り、静かに過ごさせて頂きます」
事務的にそう告げると私は踵を返してパーティの会場を後にした。
*
「お嬢様どうされたのですか? パーティはまだ終わっていないはずですが?」
外に控えていた私の侍女であるミーナは怪訝な表情で私がパーティの会場から予定より早く出てきたことに首を傾げる。
「ミーナ、ローゼンベルク領に戻るわよ」
「は? どうしてですか?」
「私、あの王子に婚約を破棄されたから」
私の言葉を聞いたミーナは一瞬硬直した後、
「え、ええええええええええええ!」
分かりやすい反応をしてくれた。うん、普通はそうなるよね。
「お、お嬢様、それはまたどうして……」
「向こうが勝手に新しい婚約者を見つけてきて婚約破棄だって。私もあの俺様殿下には飽き飽きしてたからちょうどいいわ」
「またそのようなことを……。お父様にはどう説明するんですか……」
「お父様には遺恨はないと伝えるわ。こちらから抗議する必要はないと」
「それはまたどうして?」
「まあ、私にもいろいろあるのよ」
私の行動に疑問符を浮かべるミーナを連れて私は王都を後にした。
*
「……それで、ヨハン王子から婚約破棄をいきなり告げられたと」
「はい」
領地に戻った私は父ルイスに呼び出され、事情を報告していた。
「あの王子はなんということをしてくれたのだ……」
公爵という高い地位にあり、国の中枢にも関わっている父は私から王子がしたことを聞くと頭を抱えた。
「独善が過ぎると思っていてが、まさかここまで愚かなことをするとは……流石に度を超えている」
「父上、落ち着いてください。これはあの愚かな王子と縁を切れたということでいいことと捉えましょう」
「お前は本当に合理的にものを考えるな、そこが頼もしくはあるのだが。しかし、やはりあの王子はお前が見たという未来のためには役立ちそうになかったか」
「はい、最初は私の婚約者であるヨハン王子を動かして魔族の襲来に備えようとしましたが……あの王子では私が見た魔族によってこの国が滅びる未来を止められないと判断しました。もう利用価値はありません」
「容赦がないことを言う。しかしそうなると……」
「はい、我がローゼンベルク領の力を底上げして味方を増やし、ネールランド王国を守る他ありません。そして領地改革のための政策を行うために私はここに戻って参りました」
「……よかろう、今後領地の運営はお前に任せて私は王都での交渉を担当することにする。実際今もお前の領地運営の才覚には助けられているしな」
「ありがとうございます」
私はそういって父に頭を下げる。そのまま父の執務室を後にし、屋敷にある自分の部屋に戻った。
*
部屋に戻った私は大きなベッドに倒れこんだ。今日一日でいろいろあったため、寝転がった瞬間、疲労が押し寄せてくる。
「結局こうなっちゃったかあ……」
なんとなくこうなることを私は感じてはいたが思わず溜息が出た。十歳の時に魔族の大侵攻により国が滅ぶ未来を夢で見た私はなんとかその未来を回避しようと行動を開始した。
その時点ですでに公爵家の令嬢として第一王子と婚約が決まっていた私はまず彼を動かして国に力を付けさせようと考えた。
しかし結果は御覧の通り。第一王子は私が話をしても聞く耳を持たず、私を疎ましく思い婚約破棄を突きつけた。魔族の襲撃が年々増えていることを根拠に国の軍事力を強化することを進言したがすべて無駄に終わった。
こうなれば魔族の大侵攻に対して自力で備えをするしかなくなる。父には事前に見た未来の夢について伝えていた、はじめは父も信じていなかったが魔族は年々強くなっていくと私が忠告したように魔族が強くなっていく様子を目の当たりにしてローゼンベルク領でも魔物への備えが必要と私の意見に耳を傾けるようになった。そうしていくつか領地の運営にアドバイスを行い、成功させたことで父の信用を得たのだ。
「頑張るのよ、私」
決意を胸に私は肩を抱く。本当は不安で仕方がない、それでもあの魔族の大侵攻を防がなければ皆が死んでしまう。
「お嬢様、今よろしいでしょうか」
私が一人不安と戦っていると扉の向こうから声がかけられた。
「あー、アルバート?」
「はい」
「うん、ちょっと待って。今、扉開けるから」
私は扉に駆け寄り、声の主を招き入れる。そこにいたのは美形の青年だった。綺麗な金髪は肩口まであり、街を歩けば皆の注目を集めそうな眉目秀麗な男性だ。
彼は私の従者の一人のアルバート。主に私の護衛を担当して貰っている。私が小さい時から一緒に育ったので幼なじみのようなものでミーナと同じ良き相談相手だ。
「話は聞きました。その……大変でしたね」
「別にそのことでそこまで落ち込んではないわ」
「そうでしたか。それで今後は領地の経営に携わると伺いましたが」
「ええ、そうよ。そして例の件について備えをするの」
「……お嬢様がおっしゃっていたあの件についてですか」
アルバートには私が見たあの夢の話を一番最初にしていた。なぜかと言うと……まあ、単純に私がその夢を初めて見て泣き喚いていたところを彼が一番最初に見つけたという非常に恥ずかしい理由でなのだが。
彼も最初は私の見た未来について疑っていたが父と同じ理由で彼も私の言うことを信頼するようになった。
「うん、王子をなんとか説得できないか頑張ってみたけど駄目だったわ。だからローゼンベルク領が力を付けて周りを引っ張っていくしかない」
「……もう覚悟は決められたのですね」
「そうよ、私がやらないと」
私の言葉を聞いたアルバートが近くまで寄ってきて、私の手を取る。彼の手の体温の暖かさが妙に心地よかった。
「失礼な真似をお許しください。ですがこれだけでは言わせてください。あなたは一人ではありませんよ」
「……!!」
「先程、あなたは私がやらなくてはとおっしゃいました。あなたのその責任感の強さは美徳ですがどうか私やミーナ、父上を頼ってください。今、あなたがやろうとしていることは到底一人ではできないことでしょう」
「……そうね、あなたの言うとおりだわ。……その言葉通りに私が困った時はちゃんと助けてよ」
彼の重ねられた手に私も手を重ねながらお願いをする。その願いに彼ははっきりとした口調で答えた。
「はい、もちろんです。私はあなたの従者ですから」
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