第39話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと14
だけど、クルト君は休めなかった。
ノルデイッヒのギルドメンバーの男の子たちにたちどころに囲まれてしまったからだ。
ん? という感じのクルト君に男の子たちは口々に叫ぶ。
「クルトさんっ!」
「
「僕らも
「教えてくださいっ! クルトさん」
こうなると断れないのがクルト君。木の部分が砕けている自分の
それをうっとりと見ている男の子たち。そして、男の子たちがクルト君を見つめている光景をこれまたうっとり見つめているのがパウラちゃん。
「うふ。うふ。うふふふふ。いいですねえ。いいですねえ。夢が広がりますう」
何の夢なの? 一体?
◇◇◇
だけど、パウラちゃんの夢の時間はあっさりと終わりを告げた。
はにかみながらパウラちゃんの袖を引っ張る小さな女の子が一人。
はい? という感じのパウラちゃん。さっきのクルト君みたい。
小さな女の子はか細い声をやっと絞り出すかのように話しだす。
「あっ、あの…… 『
パウラちゃんは驚きの表情。自分がそんなこと言われるとは思っていなかったようだ。何か可愛らしいね。
そんな様子を眺めていたら、今度は私がカトリナちゃんに袖を引かれた。ん?
見るとノルデイッヒのギルドメンバーの女の子たち。
「お二人の『
おやおや、私の方まで来たよ。ギルドが実質閉鎖状態で、住み慣れたノルデイッヒも急に離れなければならなくなって、不安だったんだよね。そこに私たちの戦いぶりを見て、憧れてくれたのかな。
よろしいっ! 私も「クルトの彼女」。知ってることはお教えしましょう。
夜はしんしんと暮れていく。私たちの話は止まらない。かつては「そろそろ寝ないか」と諭した
(これから先はロスハイム周辺だから、そんなに強い野盗や
そう思ったと後で教えてくれた。
◇◇◇
結局、みんな徹夜で話していて、寝たのは日が昇ってから。私たちは結局廃屋で二泊した。
それでも、ノルデイッヒのギルドメンバーの子たちは随分気持ちが落ち着いたみたいだ。残して来たギルドマスターのトマスさんとその奥さんのアンナさんが心配という子もいたが、
廃屋を出てからロスハイムに向かう道中は、それまでより随分楽になった。
スライムが出て来た時は、あえて私たちは手出しせず、ノルデイッヒのギルドメンバーの男の子たちがひのきの棒で苦戦しながら倒すのを見守った。
更にコボルドが飛び出して来たので、すわ奇襲かと杖を構えたら、その後から
そうこうしているうちにロスハイムに帰着。ギルドメンバーは十二人も増え、「
慌ただしくも楽しい毎日が続いていた。クルト君と私が十八歳になったあの日までは……
◇◇◇
その情報は突然に入って来た。
「ファーレンハイト商会が編成した一大
え?
「その一大
え? え?
◇◇◇
次々、届く情報の書簡を囲むのは、
「今まで届いたのは全て伝聞情報だ。これだけ大きな事件だと、現場は相当混乱する。案外、荷物は略奪されても、人間は脱出に成功して無事ということも考えられる」
ハンスさんがすっくと立ちあがると言う。
「私とナターリエのパーティーが現場を偵察してきましょう」
「行ってくれるか。
ハンスさんは大きく頷く。
だけど、ハンスさんの申し出はすぐに意味を持たなくなった。
◇◇◇
早馬と共に届けられたのは、オーベルタールの警備隊、つまり、グスタフさんからの書簡。
「このような情報を伝えることは
「……」
「ファーレンハイト商会が機能しなくなった以上、ノルデイッヒの治安が心配だ。
「……」
おかしい。どうして悲しい? どうしてあの人たちが死んで悲しい? あの人たちは私に花嫁修業だけをさせて、政略結婚の駒にしようとしてたじゃないか。
おかしい。どうして涙が出る? どうしてあの人たちが死んで涙が出る? あの人たちは花嫁修業を放棄して、家を出た私をなじったじゃないか。数々の暴言を浴びせたじゃないか。
おかしい。どうして? どうして? 体が崩れ去りそうになる?
……
私の体は崩れ去った。前方に倒れそうになった。
でも、倒れなかった。
クルト君が支えてくれたからだ。
あたたかい……
その時、私はそう思った。
第四章 ENDE
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