第37話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと12

 この町を出る時も、ゼップさんギルドマスターは門番に金貨を一枚握らせた。


 それに対して門番は舌打ちしながらこう言った。

「来た時より随分と人数が増えてるじゃねえか」


 ゼップさんギルドマスターは黙って金貨をもう二枚握らせた。


 門番は不機嫌そうな顔を隠さずに言い放った。

「しょうがねえな。全く。手間ばっかかけんじゃねえよ」


 私たちは門番にペコリと頭を下げ、そそくさと城門を通り抜けた。


 避けられる厄介ごとは避けるに限る。でも、本当に空しい。


 ◇◇◇


 ノルデイッヒのギルドメンバーはやはり元気がない。


 無理もないけど、そんな彼らにも野盗たちは全く遠慮しない。当たり前と言えば、当たり前だ。


 ! 私たちパーティーメンバーは顔を見合わせた。いるっ!


「ノルデイッヒから来た人たちは、ゼップさんギルドマスターを囲むように布陣して下さいっ! 後ろの岩陰に隠れている連中はクルト君たち、お願い出来ますか? 私とデリアちゃんは前から来る連中をやりましょうっ!」


 カトリナちゃんの判断は素早い。大きく頷いたクルト君はカール君とヨハン君を引き連れて、岩陰に近づく。


 それに対し、ノルデイッヒから来た人たちは、戸惑いを隠せない。不慣れなんだろう。おろおろしながらもゼップさんギルドマスターの周りにいる。

 

「デリアちゃん。前から来る野盗に『火炎ファイヤ』で攻撃してください。その後に、私が『混乱コンフュージョン』で動けなくする戦法で行きましょう」


 デリアちゃんの提案は、私たちコンビの定番のコンビネーションだ。だけど、その時の私には別に思うことがあった。


「うーん。今回の野盗はそう強いほうでもないと思うんだ。だから、ちょっと試してみたいことがあるんだ」


「え? 試してみたいこと……ですか?」


「うん。さっき私は『混乱コンフュージョン』を手に入れたし、カトリナちゃんは『メガ火炎ファイヤ』を手に入れた。まだ、お互い不慣れな『魔法マジック』だけど、試してみるいい機会だと思うんだ」


 カトリナちゃんはニヤリと笑う。

「いいですね。デリアちゃんのそういうチャレンジングなところ、私、好きです」


 ◇◇◇


メガ火炎ファイヤ

 カトリナちゃんの放った初めての中級ミドルレベル魔法マジック」。


 ゴオオオオオ


 カトリナちゃんの杖から発せられたそれは凄まじい音と共に、前方一帯を火の海にした。


「うわああああ」

「何だこの『火炎魔法ファイヤーマジック』は」

「普通じゃねえぞ。これは」


 わざとらしく街道を歩いてきた野盗ばかりでなく、付近の草むらに潜んでいた野盗もたまらず飛び出す。


 うーん。いいなあ。中級ミドルレベル魔法マジック。私も欲しくなった。でも「混乱コンフュージョン」の未払いのツケもあるしなあ。


 おっと、いけないいけない。次は私の番だ。


混乱コンフュージョン


「ぐわあああ」

「ぐおっ」

「ぎいやああああ」

 

 野盗たちは火の中をのたうち回るが、決して火から逃れられない。


 初めて使う「魔法マジック」にしては上出来だ。


 ノルデイッヒのギルドメンバーたちはさっきまでの悲しみも忘れ、呆然とした顔で戦況を見つめている。


 ふふふ。まだまだ。真打はこれからだよ。


 ◇◇◇


「てめえら、やってくれたじゃねえか」


 おとりのはずの前方の一団をカトリナちゃんと私の連係プレーであっさり潰滅させられた野盗たち。


 もはや、岩陰に隠れることもせず、クルト君たちに襲い掛かって来た。


 クルト君はスピアの柄を巧みに使い、数多い敵をあしらうように態勢を崩させる。


 態勢を崩した敵をスピアの穂先で仕留めるのは、クルト君の両翼を固めるカール君とヨハン君の仕事だ。


 見入っていたノルデイッヒのギルドメンバーたちから思わず声が漏れる。


「凄い」

「あの人たち、僕らとそうとし変わらないよな」

「僕らも訓練を積めばああなれるのかな」


 ふふふ。見ていてくれているかな? あれが私の彼氏クルト君だよ。


 ちょっと自慢気な気持ちになった私に一際大きな敵の声が響いた。

 

「おめえら、下がっていろっ! あの真ん中の奴は結構出来るぞ。わしが相手する」


 ◇◇◇


 後方から現れたのは他より一回り大きな体をした野盗。族長チーフテンか。


 さすがにクルト君の表情にも緊張が走る。


「どうなんだ。てめえ。わしとの一対一受けるのか。あ?」


 戦況はこっち優位だから、敵は一対一で逆転を狙おうというのだろう。こちらが受けてやる義理もない。だけど……


「受けようじゃないか。一対一」


 クルト君はやはり受けた。今回はノルデイッヒのギルドメンバーが多くいる。勝負を避けることは士気の低下、内部的な混乱を招く、それを恐れたんだと思う。


 敵の部下たちは後ろに下がった。カール君とヨハン君は顔を見合わせていたが、クルト君に促されて後ろに下がる。


「いい度胸だ。それだけはめてやるぜ。わしは『暴虐のギード』。貴様は?」


「『僧侶戦士のクルト』」


 ギードはあざけるように笑った。

「何だそれは? ふざけた二つ名だな。『僧侶』なのか『戦士』なのか、はっきりしろいっ! まあ、いい。そんなふざけた二つ名を持つ奴の命も今日までだ」

 そして、広刃のソードを構えた。


 ◇◇◇


 ! その場に衝撃が走り、ざわめく。


 広刃のソード。切れ味より衝撃力を重視している。衝撃力で相手を圧倒する目的で作られたソード


 それに対するクルト君の武器は柄が木製のスピア。私とカトリナちゃんが木の杖で打ち合いをしたら二本とも粉々に砕けてしまったように、木製は衝撃に弱い。


 クルト君にとっては、相性の悪い組み合わせなのだ。

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