第36話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと11
「……」
「分かった。受け入れよう。だが、もう一つだけ聞きたい。ファーレンハイト商会が契約している傭兵はどうしてそんなに格安なのか? 普通はギルドの依頼よりかなり高くつくはずだろう」
「ああ。それは」
「?」
「ベルリヒンゲン団と契約したからだ」
「ベルリヒンゲン団だとっ!」
「『盗賊兵士』だろうっ! あいつらはっ! あまりの所業のひどさに王軍が直々に討伐して、潰滅したはずだっ!」
「ああ。そのとおりだ」
それに対し、トマスさんの受け答えは冷静なままだ。
「だが、残党がかなりいる。そいつらが再結集したんだ」
「!」
「より
何てことなの。おばあちゃんが守ってきた
私は言葉を失ってしまった。
「どうして…… どうして、ファーレンハイト商会は
「…… 安いからだ。ベルリヒンゲン団の残党はとにかく食っていかなければならなかった。だから、ファーレンハイト商会の提示する条件の劣悪な契約を受け入れた……」
場全体がシンと静まり返った。
◇◇◇
しばしの時間を経て、
「…… 分かった。だが、この問題はでか過ぎる。わしとトマスだけでなく、オーベルタールとファスビンダーのギルドとも協議が必要だろう。更にカロッテ村の
みんな、しきりに頷いている。そんな中、クルト君は目を閉じて、腕組をして、何か考えているようだった。
トマスさんはもう一度
「お前さん方、明日にはロスハイムに帰るのだろう? その時は
ええーっ 後ろで聞いていたノルデイッヒのギルドメンバーから驚きの声が上がる。それはそうだよ。あまりに急な話だ。
トマスさんはそんなギルドメンバーを一喝する。
「馬鹿野郎っ! おまえらの実力で
だが、そう言うトマスさんのまなじりには少しだけ涙がにじんでいた。
◇◇◇
その晩はトマスさんの家で私たちパーティーに加え、ノルデイッヒのギルドメンバーとの「お別れ夕食会」が開かれた。
六人いた女の子たちはみんな泣き出してしまっていた。そんな彼女たちをアンナさんは優しく励ます。
「何、泣いてんだいっ! これが今生の別れって訳でもないだろうっ! 元気にして頑張ってれば、また、会えるさっ!」
その言葉に女の子たちはまた泣き出す。アンナさん、慕われていたんだなあ。
さすがに男の子たちは泣いてはいないが、みんな、神妙な顔つきだ。緊張もしているのだろう。
「なあ、トマスよ」
仲良く並んでちびりちびり飲んでいた
「何だ?」
「もういっそ、
「ふんっ」
トマスさんは鼻を鳴らした。
「じゃあ言わせてもらうが、わしと
「…… 悪かった。わしでも離れねえだろうな」
「ははは。分かってくれてありがとよ。実はよ
「ほう」
「『そんなことになったら、あたしは爆弾抱えてファーレンハイト商会の傭兵詰所に殴り込みをかける』だとさ」
「すげえな」
「ああ、すげえ。だが、おまえのとこの女房も同じようなこと言うんじゃねえのか?」
「ちげえねえ」
お二人は肩を叩いて笑い合った。
それをきっかけに場は砕け始め、ノルデイッヒのギルドメンバーは思い出話を語り始めた。
私たちメンバーはその話に聞き入っていた。
◇◇◇
翌朝出立前に、私たちはノルデイッヒのギルドに立ち寄った。
アンナさんがこう言ったからだ。
「もうこれで、
かくて、私たちパーティーメンバーは以下のものを買うことになった。
カール君とヨハン君は新品の
パウラちゃんは「ターンアンデッド」の「
私はカトリナちゃんが使っていて、自分も欲しくてたまらなかった「
そして、カトリナちゃんは初めての中級
クルト君も初めての中級
これが何と全て、アンナさん曰く「タダって訳にもいかないから、通常の半額でいいよ」とのこと。
破格の値引きだ。でも、特に中級
「立て替えといてやる」
「ツケはキッチリ払ってもらうからな」
へいへい。また、借金返済のためのクエスト受注ですね。まあ、憧れの「
そして、トマスさんは言った。
「最後までしんみりした別れは性に合わねえ。最後は笑っていくぞ。わあっはっはっは」
「わあっはっはっは」
みんな唱和した。だけど、みんな、まなじりの小さな涙は隠しようがなかった。
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