第26話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと1

(この章は少女デリアの視点になります)。


 私はゆっくりと歩いて行く。


 隣にはクルト君が歩いているけど、二人とも終始無言。


 私とクルト君が気まずい訳じゃない。


 私の頭の中がノルデイッヒであったことでいっぱいだったからだ。


 おばあちゃんは……本当に残念だけど、もう会えないだろう。目も見えない、耳も聞こえない、指一本動かせない……HPヒットポイントはもうないのだ。だけど、MPマジックポイントをたくさん持っていて、それが残っていたから、最後に私と話せたのだ。きっと、そのために大事に取っておいてくれたのだ。


 おばあちゃん…… 私はノルデイッヒでさんざん泣いたのに、まだ、涙が出て来た。


 ふと、隣のクルト君を見てみる。


 不思議だ…… 笑顔じゃない。まだ笑顔は少し苦手みたいだ。でも、出会ったばかりの頃のような無表情でもない。何と表現したら良いかはわからない。でもっ、でもっ、見ていると安心する…… そんな表情だ。


 あ、目が合った。あ、また、目を逸らした。こういうところは一向に変わらないね。うふふ。何だかおかしくなってきちゃったよ。


◇◇◇


 ! 魔物モンスターだっ! 全く無粋な奴らだね。 せっかく、クルト君と少しいいムードになりかけていたのに……


「デリアッ! 僕の手持ちは『治癒キュア』十五、『状態回復リカバリー』八、『不死退散ターンアンデッド』二っ! そっちは?」


「『火炎ファイヤ』一、『冷凍アイス』二、『雷光サンダー』一、『治癒キュア』二。敵はスライム五でいいですか?」


「それでいいと思う。『雷光サンダー』で全部潰せそう?」


「やってみますが、分散傾向にあるので厳しいかもです」


「分かった。残ったら僕も攻撃する」


 私は「雷光サンダー」を放つ態勢に入る。クルト君とのいいムードに水を差されたのは残念だけど、この緊張感は嫌いじゃない。


雷光サンダー」が草むらに潜むスライムどもを撃つ。だけど、やっぱり、全部は倒し切れなかったようだ。クルト君がスピアを持って、突進する。


 戦闘経験がない人ほど、スライムを雑魚ざこモンスターとか言うが、一撃で人にあざを作るくらいの攻撃力はある。二撃三撃と喰らえば、骨が折られることだってある。


 結局。五体いたスライムのうち、私の「雷光サンダー」で三体が動かなくなった。クルト君は両サイドでまだ動いている二体のうち、右側の一体に向かう。


 スライムはジャンプし、クルト君の顔面を狙う。戦意を喪失させようという狙いだろう。しかし、私のクルト君はレベル18の「僧侶戦士」。真正面からスピアの柄でスライムを叩き落す。


 おっといけないいけない。いくらかっこいいからと言って、見惚れている訳にはいかない。左側に一体残っているスライムの退治は私の仕事だ。


 むっ、残ったスライムめ。不埒にも背後からクルト君に襲いかからんとしているな。「魔法マジック」でとどめを刺すか。いや、ここは……


 クルト君の背後に向け、飛び上がったスライムに向け、私は突進し、大きく杖を振りかぶった。


 ドカッ


 スライムと私の杖は絶妙なタイミングでぶつかり合い、スライムは四十五度の角度で中空に飛んで行った。

 正確には分からないが、相当な飛距離が出たようだ。


「……」

 後ろを振り返ると、クルト君があっけにとられた表情でこちらを見ている。


「あ、あのクルト君。そちらは片付いたのですか?」


 ◇◇◇


 クルト君は我に返った。

「あ、ああ。大丈夫だよ。こっちは全部とどめを刺した」


 私が飛ばしたスライムを見に行くと、見るも無残に体全体が砕け散っていた。


 クルト君は淡々と話す。

「うん。これはとどめの必要もないな」


 うーん。これはロマンチックのかけらもないね。


 ◇◇◇


 スライムの死体の脇にあった銅貨を拾うと、感じるのは敵の気配。無粋なのは「魔物モンスター」だけではないらしい。


 野盗だ。しかも、嫌なことに少しできる相手のようだ。


 弱い敵ほど一か所に固まってくる。そうなると私の「魔法マジック」で狙いやすい。


 戦闘慣れしている敵ほど分散してくる。いっぺんで倒すのが難しくなる。


 敵の数は五。そう言うと、クルト君も頷く。どうやら包囲を狙っているらしい。


「ウオオオオーッ」

 敵は一斉に突撃してくる。


 クルト君から声がかかる。

「デリアッ、『魔法マジック』で行けそうなのは何人?」


「二人までは」


「分かった。三人、出来るだけ防ぐっ!」


 ◇◇◇


 突進してくる敵に「火炎ファイヤ」を食らわせる。やったか。いや……


 一人でも倒せたらと思ったが、何と二人とも立ち上がってきた。これは手強い。今度は「冷凍アイス」を食らわせるか?


 いや、駄目だ。「魔法マジック」を発するまでに集中する時間が取れない。私は杖を振るい、敵を攻撃しようとしたが、やはり強い。攻撃するどころか、こちらが防戦しているような状態。


 クルト君もさすがに手練れの三人相手はきつそうだ。相手が一人なら心臓を狙ってスピアを一突きだが、三人では刺している間に、他の二人にやられる。勢い柄での戦闘になる。柄だと多人数相手の戦闘が可能になるが、当然、穂先と違い、敵に致命傷は与えにくい。


 こういう時の打開策。肉を斬らせて骨を断つである。別の方からの攻撃による負傷を覚悟のうえで一人を確実に倒す。そして、残った力でもう一人を倒すのである。


 この方法は三人を相手にしているクルト君より、二人相手の私の方がやりやすいはずだ。私は杖を握る手に力を込めた。


 

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