第8話 第1章 感情を失った少年戦士が笑顔を取り戻すまでのお話8

その日は来た。


 僕はついにレベル15になり、シモーネさんに報告に行った。

「シモーネさん。僕、レベル15になりました」


 帳簿をつけていたシモーネさんは僕の方を向くと、また、あの笑顔を見せた。

「やったねえ。クルト君。世界初の『僧侶戦士』の誕生だね」


「「ところで……」」

 何故か次のセリフで、僕とシモーネさんは重なった。


「あ、クルト君。先に言って」


「いっ、いえ。シモーネさんからどうぞ」


「そ、そう。では遠慮なく……」


 シモーネさんは一呼吸おくと、


「私、今月いっぱいでこのギルド辞めることになったんだ」


「えっ?」

 僕の頭は真っ白になったが、何とか次のセリフを絞り出した。

「えっ? それはどういう?」


「実はね……」

 シモーネさんは、はにかんだ表情を見せた。僕は嫌な予感がした。

「オーベルタールの警備隊長が引退することになって、後任に、あいつ、グスタフが招聘されたんだ。そうしたら、グスタフが一緒に来てほしいって……」


「!」

 そっ、そんなっ! 今月いっぱいって、あと一週間しかないじゃないか。それにしても…… それにしても……


 相手がよりによってグスタフさん。これは…… これは……


 かなわない


 僕はいつもとは違った条件でトリップした。


 ◇◇◇


「で? クルト君の方の話は?」


 僕の耳はシモーネさんの質問返しを、辛うじて拾った。

「いっ、いえ。何でもないです」


「そう? でね。クルト君の『僧侶戦士』の初仕事として『護衛クエスト』を引き受けてほしいんだ」


「はっ、はい」

 そうだ。ここは仕事に打ち込むことで忘れよう。


「私の後任をやってくれるって人がノルデイッヒのギルドで待ってるので、護衛してここまで連れてきてくれるかな」


「はい」


「詳しくはノルデイッヒのギルドで教えてくれるから。まずは身一つで行ってみて」


「はい」

 以前とは違って「護衛クエスト」も慣れたものだ。


「では、すぐにでも出発します」

 僕は言った。一刻も早くこの場を立ち去りたかった。


「あ、最後に一つだけ……」


「えっ?」


依頼主クライアントに会ったら、笑顔を見せなさい。前よりだいぶ良くなったけど。クルト君はまだまだ不愛想だからね」


「はい」

 僕は愛用のザックを背負い、スピアを右手で握ると、ギルドを出た。

















 ◇◇◇エピローグ◇◇◇


「クルトには悪いことしちゃったなあ。やっぱり、シモーネおまえのことが好きだったか」

 隅っこで黙って飲んでいたグスタフはシモーネの近くの席に座りなおした。


 シモーネも隣の席に座る。

「まあ、私も満更じゃなかったけど、誰かさんが待たせてくれるもんで、もう私は三十だよ。クルト君の倍の年齢としだよ」


「まあ、そう言うなって。一介の冒険者じゃ先行き見えないところがあるしな。それにしても、さっきの『護衛クエスト』の説明。ずいぶん、はしょったじゃないか」


「だって、その方が面白いじゃない」


「クルトの奴、びっくりするぞ。シモーネおまえの後任が、あのデリア・ファーレンハイト嬢で、今回の『護衛クエスト』でクルトを指名してきたなんて言ったら」


「ふふふ。そう考えると笑っちゃうね。でも、クルト君、デリアちゃんにちゃんと笑顔を向けられるかなあ。まだまだ不愛想だからなあ」


 だが、その心配は杞憂だった。


 二日後ノルデイッヒのギルドにおいて輝かんばかりの笑顔でその依頼主クライアントはクルトを迎えた。

依頼主クライアントのデリア・ファーレンハイトです。今日は…… いえ、これからずっとよろしくお願いします」


 これに対して、クルトの笑顔は自分でも驚くほど自然に出た。

「こちらこそよろしくお願いします」




 第一章 ENDE

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る