思考反復横跳び
空殻
*
筋道の成り立たない物語を書きたくて、言葉の意味を考え続けた挙句に、迷路にはまったように何も浮かばなくなった。
それでも手を動かし続けないといけない死刑囚なので、何かを打ち続けなくてはならない。
たとえば自分がロボットであったなら、まさしく今この状況こそが労働であって、何の対価もないとしても、存在の正当性だけは得ている。
この世に生まれた以上は、何かしらの形で存在していいという許可を自分自身から戴かなければならないので、そういう意味ではこれは無上の報酬だ。
ただ、労働はつまらない。とてもつまらない。
本質的に人間は働くことを苦痛に感じるようにできている。
苦痛に感じるなら、自分はロボットではなくちゃんと人間である。
手を動かし続けるうちに、タイプする指先とキーの摩擦熱で皮膚が溶けはしないか。
溶けてしまえば、肉の焼ける臭いがするだろうか。
焼肉はおいしいならば、自分自身が焼ける臭いも食欲をそそるのだろうか。
だとしたら、同じ死刑囚であっても磔刑のまま業火に焼かれるのがいいような気がする。
魔女と呼ばれた聖女もそんなことを考えていたのだろうか。
肉の焼ける臭いがしなかったらどうだ。
自分はやはりロボットだということか。
しかし働くことは苦痛だ。ならば、ロボットではない。
背反する二系統の結論で思考停止するのはロボットの特権か。
自分が人間だとしても、二律背反でオーバーヒートするだろう。
オーバーヒートしたら、肉が焼ける。
肉が焼ければ、ロボットでない。
焼けたら、死ぬのか。
死ぬのはいやだ。
やりたいことがたくさんある、とは言わないが、死ぬのはいやだ。
現世へ来ることは望まなかった。
来世へ行くの抵抗がある。
ひどい一方通行。
死にたくないと思うなら、自分はロボットではない。
無機物に死の概念は無い。
破壊はあっても、死とは違う。
ならば自分は有機物。
迂遠に自己を認識した。
人間性を獲得する。
人間だ。
にんげんだ。
ニンゲンダ。
思考反復横跳び 空殻 @eipelppa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます