第102話 クリスマスと雪山とマリーさん ~サプライズと騙すは違うんですよ、おじさん~

 ばあちゃんが手配してくれたパジェロに乗り込み、茉莉子といざ出発。


「どこに行くんですか!? ねー! おじさん、おじさん! クリスマスイヴですよ、今日!! あー! さては茉莉子といけない場所に行こうとしてますねー!? こんな車まで用意しちゃってー! 大きなリュックサック!! 中身はパーティーグッズですね!! 厚着という事は!! あたし分かっちゃいましたー!! 雪遊びするんですね!!」


 まりっぺが思考を読んでこない。

 これは、自分から遮断しているパターン。


 サプライズされてやろうという、胸も器もでっかいのがうちの子!

 では、存分にサプライズさせてもらおうじゃないか!!


 この俺、小松秀亀が!!

 クリスマスサプライズしようと言うのだ! 茉莉子!!


(おっす! おら、ララァ・スン!!)


 俺を導いてくれそうなばあちゃんも来た!

 これで勝つる!!


(ばあちゃんはね、小松家からパブリックビューイングの様子をお届けするよ!!)


 ばあちゃん、うちに来てんの?

 確かにマリーの会の女子どもは家に入れといたけど。


(いや? 行ってないよ? ばあちゃんくらいになると、テレパシーを衛星で反射させて間接的に中継しながらヒジキの脳内に映像と音声を送る事くらい造作もないよ?)


 マジでニュータイプじゃん。

 ニューばばあじゃん。


(うっせぇ! ぶっ殺すぞ!!)


 あ。ごめんなさい。


 とりあえず、猫目山まではあと車で30分。

 助手席の茉莉子は大変ウキウキしている。


 ここまでは計画通りだ!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うわー。秀亀、すっごくニヤニヤしてるね。あれがフラグなんだよなー」


 マジかよ。

 本当に我が家のリビングの様子が脳内にハッキリと送られてくるんだけど。


「オレオ持って来たっすよー。あ、新菜さん。初手でオレオの粉がスプラッシュしてぃーんすけど。白いシャツにそれはヤベベっすよ」

「あらら。ホントだ。……んー。ま、いっか! よっこらせ」



 人んちのカーペットでお前!

 オレオの粉を拭きやがったな!? 見てんだぞ、最終局面クライマックスのヒジキは!!

 ニュータイプ能力を付与されてんだ!!



「マリーちゃん、いいなぁ。……と、言いたいところですが。正直、私に冬山登山とか絶対に無理です。500メートルくらい歩いたら、もうエンドロールですよ。良かったです。今日はコタツで観戦するサイドで」

「もし! 誰かある!! 小松さんのお宅のブレーカーを増設しなさい! 先ほど、ファンヒーターとコタツとエアコンと電子レンジを同時に使ったら何もかもが消えました!!」


 もえもえ! ブレーカー増設しなくていい!

 増設した分、電気代も増えるから!!


 うちのブレーカーって家計のブレーカーでもあるからね!?

 際限なく電力吸い取り続けたら、この冬で小松さんの家は潰れるよ!!


 最初はばあちゃんの「マリーの会にもエンターテインメントを提供するのがヒジキとしてのケジメだろ」という訳の分からん理屈に懐疑的だったし、今もちょっと何言ってんのか分からんけども。


 あいつら!

 全然こっちに興味なくない!?


 くっそデカいテレビに俺たち映ってんのに、見てねぇじゃん!!

 みんなしてスマホいじってさ!!


 今どきの子ってそういうとこあるよね!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おじさん? なにボーっとしてるんですか? 危ないですよ」

「お、おお。茉莉子がちゃんと助手席で運転助手してくれてる。嬉しいなぁ」


「んふふふー! なにせ、このマリー・フォン・フランスマン!! 一流のご令嬢を極めた今! 次に向かうはおじさんの良妻!! 茉莉子なしでは生きられない体に改造してやるのですよ! んふふふふー!!」

「もうフランソワ家が正義超人の弱いモブみたいになってるけど! ドヤ顔の茉莉子は可愛いなぁ! すっげぇいいとこ連れてってやるからな!!」


「えー!! もぉー! あたしの胸をこれ以上ドキドキさせないでくださいよー!! また大きくなっちゃうじゃないですかぁー!!」


 小春ちゃんの表情が曇った気がするけど、運転中だからもう確認しない!!


 俺たちは楽しいドライブで心の準備運動をしながら、いよいよ現場の猫目山に到着した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……騙されました」


 なんかまりっぺがね、動物病院に連れてこられたワンコみたいになってる。


「どうした! これからが本番だぞ!! 茉莉子!! ふふふっ! 何が起きるかは内緒だがな! ふふふふっ!!」

「バカなんですかぁ! バカなんですよぉ!! このバカなおじさん好きになったあたしも大バカですよぉ!! 知ってますからね!? おじさんの考えたしょーもないクリスマスプランがこれから実行されるんじゃないですか!! あ゛-!! もぉぉぉ! 最悪ですよ! さっさとテレパシー使えば良かったですぅー!! おじさんがなんだか嬉しそうだし、気の利く茉莉子は何も覗きません! とか考えてた茉莉子を蹴り飛ばしたいです!!」



「おいおい。今の茉莉子と過去の茉莉子で喧嘩するなよ! 俺はどっちも好きだっ!!」


 無言で蹴られた。



 しかし、もう無駄な抵抗なのだよ、まりっぺ。

 我が家から車で45分も走らなければならないこの距離が、俺の考えた最高のクリスマスのイージスシステム!!


 ふふふっ。帰れまい!!


「……おじさん。かつてないほどキモい事を考えてますけど。大丈夫ですか? あたし、誕生日は2月ですからね。15歳の女子高生を拉致してますけど。ホントに大丈夫ですか?」

「同意があれば良いんじゃないの?」


「その同意を求められてない件について追及してるんですけど!?」

「えっ……? 嫌だったか? マジか。すまん。茉莉子に色んなことを経験させてやろうと思ったんだけど。そっか。確かに内緒でこういうのは良くないよな。悪かった。帰ろうか……」



「べ、別にぃ? 嫌だとは言ってませんけどー!! たまにはアウトドアも悪くないですし? あたし、運動神経バツグン系の女子ですし? ま、まあ、おじさんが茉莉子大好き過ぎて、ちょっと暴走しちゃったところもあたしとしてはありですし? 準備しますよ!!」


 うちの茉莉子が1番可愛いんだよなぁ!!



 普段の猫目山は雪なんて真冬になってようやく1センチ積もるかなくらいの、実に穏やかな山で、地元の小学生たちが遠足で頂上目指したりするらしい。

 だが、今日の猫目山は違う!


 ばあちゃんがなんかすげぇ金かけて、ガチの厳しい冬山に劇的ビフォーアフターしてるからね!!


 登山経験だって完璧よ!

 高校時代には登山部が廃部になりそうってんで、1年在籍してたから!


 もうね、猫目山も8回くらい登ってるから、まったく死角はない!!

 雪の積もった山は初めてだけど!!


 ワクワクするね!!



(おっす。おら、閻魔あい。ヒジキ、それ、ほんまの事かい? いっぺん死ぬのかい? あんた、あれだけ冬山登山クリスマスを熱弁してて? ええ? 冬山童貞なのかい? 童貞コンプリートする気かい? 童貞王になるのかい? 安心しな。この海で最も愚かな童貞はもうね、ヒジキで決まりだよ。今すぐこの船下りろ)


 なんで? 大丈夫! 案内板なくても登れるよ!!



 リュックサックを背負って、茉莉子の準備も整った。

 さあ、最高のクリスマスをこの小松秀亀が演出してやろうと言うのだよ!!

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