えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第59話 水泳とマリーさん ~山奥から出てきた田舎娘は水が苦手~
第59話 水泳とマリーさん ~山奥から出てきた田舎娘は水が苦手~
今日も1日充実していた。
大学では心理学のディベートで3人も賛同してくれたし、ファミレスでは萌乃さんの襲来を1人で切り抜けた。
達成感しかない金曜の夜。
ビール飲んじゃおうかしら。
(あたし、マリーさん)
隣にいるのに!?
久しぶりだとやっぱりビビるから、ヤメてよ!
肘で突いたら届く距離にいるじゃん、茉莉子!!
(あたし、マリーさん。来週から、水泳の授業が始まるの)
もう6月終わるもんね。
6月、特に何もなさ過ぎて一瞬で終わろうとしてるからね。
衣替えしただけで過ぎていく6月ってすごいや。
けど、プールか。
いいなぁ。俺、体育は元から得意だったけど、水泳は特に大好きだったんだよね。
高校時代は男子校だったから、もう泳ぎ放題だし、周囲に気を遣わなくて済むし。
涼しいし気持ちいいし。
良いことしかないじゃない。
ちゃんと学校指定の水着も買ってやったろ?
詐欺かと思うような値段のヤツ。
サイズミスったら大損失だから、試着までして。
(あたし、マリーさん)
トイレなら行って来ていいよ?
ミュージックステーション、俺が代わりに見とくから。
(あたし、マリーさん。おじさんが鈍感過ぎて、なんだかもう泣きそう)
ああ、分かった。
水着見たいって言ってないのがお気に召さなかったんだな?
じゃあ見たい! 茉莉子のスクール水着姿! 見たい、見たい!!
(あたし、マリーさん。このピーナッツクリーム野郎)
なんで!? ちょっとおじさん、想定外のディスにビール噴き出しそうになったよ!?
茉莉子のムチムチした体にスク水って似合うね! とか言う流れじゃないの!?
茉莉子は立ち上がると、自分の部屋へと去って行った。
そして、買ったばかりの水着を握りしめて戻ってくると、俺の顔面に投げつけた。
「いでぇ!! 何すんの!?」
「あー! もぉー! がっかりです! おじさんにはがっかりですよ!! 女子高生のスク水姿を性的な目で見るとか! もぉ! 人としてどうなんですか、それ!!」
「ええ……。これまで、制服、体操服、夏服と女子高生ブランドで俺に散々ちょっかいかけてきたまりっぺが、何を言ってんのよ。着てみなさいって。見てあげるから」
「ばかぁー!! おじさんのばかぁー!! 性欲モンスター!!」
「いわれのない迫害受けてんだけど!! 俺に対して性欲ディスはあんまりな誤射だろ!! ねぇよ、そんなの!! あったら茉莉子を抱きしめとるわ!!」
すると茉莉子さん、ハムスター形態へ。
今日のうちの子、ちょっと様子が変だわね。
「プール、怖いじゃないですか」
「どういうこと?」
「あたし! 泳いだことがないんですよぉ!! 知ってるでしょ!!」
「あー!! はいはい! 御亀村、山の中だもんね! 分校にプールなんかなかったし! なんだ! 茉莉子はてっきり、ムチってきたボディがスク水に押さえつけられて、太ももとかムチり過ぎじゃね? って心配してんのかと思っあ、ごめんなさい」
涙目でスクール水着を両手で掴む茉莉子がそこにはいた。
失言すると、この子まだ未使用のスクール水着をボブサップみたいに引きちぎるよ。
絶対にヤメて?
それ、5万近くしたんだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇
というわけで、ばあちゃんに電話をすることにした。
茉莉子はなんか死んだ魚のような目で服を脱ぎ始めた。
一応、着てるとこ見せたいんだ?
「お。もしもし、ばあちゃん? 晩飯食った?」
『おっす! おら、アン・ハサウェイ!! 今日は男を2人食ったよ!!』
プラダを着た悪魔で来たか。
プラダを着た悪魔のババアだからね、ばあちゃん。
「まあ、いいや。あのさ、茉莉子が泳いだことねぇっての忘れてたんだけど。喜津音女学院って絶対に水泳の授業受けねぇとダメなの? なんか、代替授業とかねぇの?」
『あー。ダメダメ。必修だよ。水泳できねぇ子はお嬢様失格だからね』
「ええ……。いつになく茉莉子に厳しいじゃん。可愛い孫が泳げないって泣いてんだから、助けてやってよ」
『かぁー。ヒジキぃ!! あんた、コンブになったのかい!?』
「今、俺は貶されてんの!? 全然堪えないんだけど!!」
『へぇー。やるようになったね!!』
コンブってそんなに酷い形容のされ方だったの!?
ばあちゃんは、端的に理由を語った。
教育者として、絶対にこれだけは譲れないと前置きをして。
『今のご時世さ、スク水ってもう貴重なんだよ。水泳の授業を強いたらね、教育委員会が動くんだよ? けど、うちは私立! 治外法権!! だったら! 水泳を女子高生にさせねぇでどうすんだい!!』
「割としょうもねぇ理由だった」
『旧スクール水着を推したかったのにさ。スパッツ型に変えたんだよ? 苦渋の決断さ。時代の流れって悲しいもんだよ。ああ、でもね。競泳水着は残してあるから! 好きなの選びな!!』
「分かった、分かった。どっかのプールで泳ぎの練習させるよ。さっきから、プルプル震えてるハムスターがこっち見てんだよ、涙目で。何故か競泳水着だしさ。なんで茉莉子、泳げねぇのに張り切った方にしたんだろうね」
『ほう。水着回かい。たいしたものですね』
「ばあちゃん? ついにボケたか?」
スマホが震えた。
スピーカーフォンにして確認すると、なんか地図が表示されていた。
「なにこれ?」
『ばあちゃんのプライベートプールだよ。……行ってきな!!』
「いや。近所に温水プールあるからいいよ」
『……ヒジキ? 水質汚染がまた進んだのかい? 茉莉子の友達集めて、ハーレム水着回だよ? ええ? あんた、それをまさかのスルー!? フリテンすんのかい!?』
ばあちゃんがうるさいので「茉莉子が行くって言ったらな!」と締めくくって電話を終わらせた。
泳げないのが恥ずかしいのに、マリーの会を集める理由がねえんだよ。
勝ったな! がはは!!
スマホが震える。
ラインだ。グループの方か。
『皆さんに質問です! 泳げる人はにゃんこのスタンプを! 泳げない人は死神のスタンプをお願いします!!』
まりっぺだった。
水着姿で何してんの。
風邪ひくから、もう着替えなさい。
『小春です。死神』
『もえもえ死神です』
『はっ! お嬢、だせぇーすね! ウチは愛染惣右介っす!!』
『あれ? 空気読めなくてごめん。わたし泳げるぜー』
「おじさん!! 水泳合宿を開催しましょう!!」
「まさか泳げねぇヤツばっかりだとは思わんかったわ!! もう顔が生き生きしてるもんね、茉莉子! マリーさんどこ行った!?」
お嬢様と元お嬢様のギャルが全滅という緊急事態。
そりゃ確かに必修にするわ。ばあちゃんが正しかった。
「じゃあ、新菜に教官頼んどくから。行っといで」
「はー。ですよ。おじさん。もうね、天丼も繰り返し過ぎるとくどいんですよ。どう考えもおじさんがみんなにレクチャーする展開じゃないですか」
「ごめんな、茉莉子。俺、実は泳げねぇんだ。……ねぇ? 聞いてる? あ゛! おい! 勝手に日時決めんな!! いや、明日じゃん! 急すぎるだろ!? さすがに予定が合わねぇって!! ……全員暇なんだ? 俺が言うのもアレだけどさ。君たち、もっと恋とかしたら?」
土日の予定が水泳合宿で潰された。
ちょっと近所の神社にお参りしてくる。
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