第5話 職務質問を受ける
「もしもし、これからどちらまで」
「あっ私ですか、ええ函館市内へ行く予定です」
「予定ねぇ、ではまだ決めてないのですか」
「ええまぁ、気ままな一人旅ですから、行き当りばったりで、その都度決めるんです」
「ああ、なるほど。失礼しました。良い旅を」
「ありがとうございます。では失礼します」
恭子はそのまま歩きトイレに入った。ドっと冷や汗が出てそのままへたり込んでしまった。これが逃亡生活、これからも警察官に合う度にハラハラするのかと思うとやりきれない。つい数日前までは普通のOLだった。父をやっと見つけて再会した矢先、思わぬ方向に発展した。父はやはり疫病神か、あんな刃物を振り回す女と出会ったのが不運なのか、父がそういう生活を求めたか定かではない。いずれにせよ家族を捨てた事には変わりはない。それなのに翔子は父が危険と察して女に体当たりした。それが運悪く女はベンチに頭を打って死んだ? いや死んだかどうか分からないが父に言われるがまま逃げた。何故逃げたのだろう。救急車を呼んで警察に事情を話せば、正当防衛または、情状酌量の余地があったかも知れない。やはり腑に落ちない。私が犯罪者になってしまった。
取り敢えず気を取り直して函館市内に行く事にした。しかしこの函館北斗という駅は何もない、函館市内に行くには函館本線に乗り換えて約二十分、しかもすぐ乗れば良かったのに駅を出て何をするでもなくボーとしていた。新幹線に合わせているのか電車は一時間に二本しかない不便さ。仕方がないので翔子は再びスマートフォンの電源を入れる。だが佐々木加奈からのメールは入っていなかった。母も妹も祭に行っているのかメールは入っていなかった。三十分待ってやっと函館駅行きの電車に乗った。駅で降りると外は賑やかだ。時期は八月こちらもお祭りの当日らしい。沢山の浴衣姿の人達が歩いている。遠くからは太鼓や笛の音が聞こえて来る。だが今の翔子には無縁のものだ。ともあれ今夜泊まる宿を探さなくてはならない。市内の観光センターで聞いたが、残念ながら湯の川温泉は全て満室らしい。結局は函館市内のビジネスホテルに泊まった。
つづく
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