⑩予想外と予想外のドミノ倒し
「ただねえ、私になかなか子供ができなかったことと、グレヤードさんが急に亡くなったこと。これは予想していなかったのよね」
「お姉様ともあろうものが!」
「だって私、常に健康だと言い続けられてきたし、閨だってできるだけ応じてきたわ。まあそこはできるだけ妊娠しやすい期間というものを中心にだけど」
「……そういうところまで調べてしたんですか」
「当然でしょう。閨自体は好きでも嫌いでもないわ。私にしてみればただの行為に過ぎないもの。まあそんな私の態度が下手に伝わったらオネストも縮こまってしまうでしょうから、そこは演技が必要だったけど」
「まあ、子作りの場ですしねえ」
「そう。まあ向こうもさほど経験は無かった様だから、下手にべたべたしないのはありがたいことよね。それで首尾良く子供ができればもうしなくてもいいかしら、と思っていたんだけど」
ふう、とお姉様はため息をついた。
「これがまたなかなかできないのよね。困ったことに」
「どうしてかしら」
「さあ、それはさすがに専門ではないから分からないじゃない。だからコザータ先生が揶揄いがちに言ったのにも理由があるのかも、と思って相談しに行ったこともあるのよ。ああ、そこはしっかり『夫に心配させるといけないから内緒にして下さい先生』というのも忘れずにね」
「あの先生何だかんだ言って人が善いから、お姉様の質問にちゃんと答えてくれたんでしょうね……」
訪ねた時のことを思い出して、何となく申し訳なく思った。
「それで何かしらの理由を話してくれたの?」
「まあ一応。でも月のものがおかしくなったこともないし。ただ私少し全体的に華奢すぎるとは言われたのよ。でもそれ以上のことは、今の医学ではまだ分からない、ともね」
「今の医学では」
「まだまだ分からないことは沢山ある、申し訳ない、と言ってくれたわ。それならまあ仕方がない、と私も思って、次の手立てを考えることにしたの」
「次の手立て…… それがカイエ様?」
「いいえ、まだその時点では彼女はグレヤードさんと一緒に鉱山の方だったし。カイエが関わってくるとは考えていなかったわ。まあそうね、三年から五年。そのくらいどうしても子供が自然にできない様だったら、親戚筋から養子を貰おうとは思っていたの」
「親戚筋というと、……あの伯母様達のあたり?」
「どっちかというと、もっと傍系の方ね。貴女あまり興味無いでしょうし、お父様も付き合いよろしくないのだけど、結構うちって手広く親戚が居るのよ。私は地道にその辺りで歳の頃とか経済状態とか手頃なところがあるか、その場合どうやってもちかけるか、とか色々考えていたのだけど」
「じゃ、お義兄様に外で子供を作らせるという発想はなかったのね。その時点では」
お姉様は大きく頷く。
「ええ、その時点では。だけどもう一つの予測していなかった不幸が起きてしまった訳よ。グレヤードさんが急に亡くなったことね。私、その知らせを聞いた時、一気に自分の頭の中が高速回転を始めたのが分かったのよ。色んな要素がかちっとはまったというか」
「パズルのピース」
「どちらかというと、駒倒しの絡繰りかしら」
「駒倒しの絡繰り?」
「遊戯用の平べったい駒を立ててずらりと並べて、一枚を倒すと一気に次々に倒れていく」
「ああ!」
私はぽん、と手を叩いた。
「先輩の友達で趣味にしている人が居るの。最初はただ倒していく分だと思ったら、そこから何かしら仕掛けが発動して、途中でビー玉とか動いて高さもつけてまた別の位置にいる列を倒していくとかとんでもない仕掛け……」
そこまで言って私ははは、と思わず自分の口から笑いが出ていることに気付いた。
お姉様はいつでも自分のために動かすことができる装置は既に色々仕込んであった。
ただそれを順序立てて動かすには、絡繰りを繋ぐ何かが必要で。
当初、自分の家庭のためには隠しておきたかった「しっとりとした憂いのあるカイエ様」を義兄に改めて見せること。
それが最初の一押しだったのだ。
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