④第二女学校での二人 

「それで私達一緒に第二女学校に通うようになったのよ。寮の部屋は――まあ初めは別々だったのだけど」

「? 決められた組み合わせで五年間過ごすんじゃなくて?」

「第二はその辺り緩かったのよね。がつがつ勉強するよりは、結婚が決まるまでの青春を謳歌しようという感じで。それである程度の期間過ごした後、部屋交換をし出すの」

「ああ…… それはいいかも」

「勉強には差し障るわよ」


 お姉様はくすくすと笑った。

 当時のことを思い出しているのだろう。


「だってもう、とびっきり仲のいい友達と一緒の部屋で朝から晩まで過ごす訳よ。まあ時には気まずくなることもあったけど…… おおむね楽しい日々」

「……あぶれた人は?」

「そこをあぶれたりしない様にするのが、第二なのよね。社交性が問われるのよ。家政だけでなくてね。そもそも勉強をしたくて一人の時間が欲しい人は第一を目指すもの」

「でも性格的に合わないってことは……」

「まあそういう子は辞めていったわ。そういうところなの」


 うわ。

 思わず私の顔は引きつった。

 成る程、社交性が必要。

 その才能が無い生徒は勉強よりも厳しい末路があるということか。


「まあだから、貴女は逆立ちしても無理よね、あそこで暮らすのは」

「うん、それは絶対嫌」


 私の第一女学校の生活は、まず何と言っても個人の好きな勉学なら幾らでも追求していいところだった。

 無論お祭り騒ぎもあったが、それに性格上加わることができない者にも寛容だった。


「だって仕方ないわ、第二を卒業した子達はすぐに現実の社交という名の戦場に入って行くんですもの。第一より貴族令嬢も多かったし」

「そんな中で、お姉様とカイエ様は平気だったんですか?」

「あら大丈夫だったわよ。だってカイエは本当に皆から好かれていたわ。今も綺麗だけど、昔はよく笑って可愛かったし、それに声が良いから、音楽で合唱をする時、カイエは独唱パートによく指名されていたわ」

「ちなみにお姉様は?」

「私は歌は駄目だから伴奏楽器の一員になっていたわ」


 まあ確かにお姉様は音楽に関しては平々凡々だった。

 過去の作曲家だの有名な演奏家には詳しかったが、自身が歌ったり演奏したりは今一つ。

 まあ皆の中で口真似だけをしていた私よりはずっといいだろう。


「それに何と言っても家政の授業。縫い物はそれこそ小さな頃からやっていて得意だったし、お茶会用の菓子を作らせれば絶品だったわ。あと、何と言ってもそのお茶会のテーブルを作るという課題の時には皆が絶賛したものよ」

「……何ですかその授業は」

「だから、お茶会を主催することをテーマにして、どういうもてなしをするのかを一人一人発表していくの。それこそ小さなものから大きなものまで。最終的には卒業の謝恩会自体、自身が開くパーティの予行演習になるのよ」


 ……頭がくらくらしてきそうだ。


「私はいつも企画担当だったわ。先生は季節と規模と客層と目的を提示する訳。私達はグループを組んで、一定の期間内に計画を立てて、サンプルとしてのテーブルを作るの」

「そのサンプルの出来が、カイエ様のおかげでとても良かったと」

「そう。テーブルクロス、お菓子、飾りとしての花、目的によってはカードを置いたりプレゼントの箱を作ったり。私はその段取りとして、『出席する人々のリスト』を作ったり、模擬おもてなしの口上を考えたりした訳。そうね、先生をゲストの役にして寸劇形式で発表すると言えば早いかしら」

「そしてお姉様は裏方に徹したと?」

「無論。皆で話し合う訳よ。誰が女主人の役をするのが一番評価されるのか、とか。そうね、最後の年に十回くらいあったのだけど、私のグループの中でカイエは半分その役を受け持ったわ」

「半分」

「一つのグループはせいぜい5~6人ですもの。大概は一人二回担当していたけど、私のグループはあえて彼女を前に出したのよね。まあ、私も一度その役をやってはみたし、一応合格点だったけど、ね」


 お姉様は苦笑した。


「計画するのはいいのだけど、実際にお客様役が来た時に、ぱっと自分で場に合うと考えて用意した台詞がなかなか出てこないということもよくあったわ」

「……ちょっと信じがたいんですが」

「まあ実際の緊張感が無いと駄目なのかもね」

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