第三章 義兄の関係者をあたってみた

①義兄の故郷へ向かってみた

 翌々日、私は「北の地」にあるナザリス家を訪問すべく乗合高速馬車に乗っていた。

 彼は北の地と曖昧にいつも言っていたが、正確には北東辺境領の一部だ。

 北東辺境領は、昔から帝都直通道が発達している。

 元々平地が多い土地柄のせいだろうか、馬での移動が昔から盛んな地だ。

 一応出る時に乗合高速馬車の会社にあった広告を兼ねた説明のパンフレットを一枚手にしてみたら。

 何でもそもそもは一日かかる様な場所に駅町が小さくも作られていたのだという。

 それがもう百年くらい昔のことだったという。

 小さな駅町は帝都の情報が大陸横断鉄道によって入ってくるに連れ、直接帝都行きができる方法が模索された結果、とりあえずはそこにあるものを強化させるという形に治まった。

 いつかは鉄道が走るかもしれないが、それ以外の交通手段ができたなら、この道を生かすのかもしれない。

 実際高速馬車は、通常のそれの三倍は速く目的地に到着するという。

 無論その分料金も高いが……

 まあそこはお嬢さんとしては必要経費としておこう。

 高速馬車で一日半の距離のセズ・コモという町が目的地だった。

 さすがに尻が痛いな、と思いつつもその地に降り立ち、電信であらかじめ返事をもらっておいた通り、迎えの者が待っていた。


「オネスト様のお義妹様ですね、うちの主がお待ちしておりました」


 ナザリス家からの使いは屋敷へ向かう馬車へと私を連れて行く。

 ああまた馬車か、とは思ったがそこはもう、目的地へ向かうというわくわく感が勝った。

 しかしこの興味のあるものに対し向かうわくわく感というのは、もしかしたら恋に近いのではないだろうか?

 私はふと、尻の痛みを感じつつも、頭の何処かでそんなことをつい考えてしまっていた。



「おうよく来なすったな、あの賢い奥さんの妹のあー……」

「マルミュットです。姉の結婚以来ご無沙汰しておりました、ナザリス様」

「いやいやガイヤード伯父さんとでも呼んでくれ、そうそう改まった言葉で話しかけられると儂なぞはなかなかにこそばゆい」


 そういうとガイヤード伯父は久々の客だ、とばかりに自分の家族を呼び寄せ、紹介しだした。


「帝都からのお客様ということで皆楽しみにしていました!」


 そう明るく切り出した私と同じくらいの女性が率先してその場に集合した十二、三人を次々に紹介していく。

 彼女はアルシャと言い、亡くなったグレヤードの妹だという。


「息子は今一つの出来だったが、どうも我が家は女の出来の方が良いようでな」

「あら父さん、兄さんだって別に出来が悪い訳じゃないわよ。オネスト兄さんがここいらじゃおかしい程出来すぎだっただけじゃない」


 アルシャはそれから次々と自分の下のきょうだいだの、夫だの子供だの、一緒に住んでいる従兄弟や従姉妹だの紹介をしだした。


「一応今の女主人は私ってことになっているから、滞在中は何でも聞いてね」

「お姉さん、凄い頭いいんだって?」


 目をきらきらさせて少年達が寄ってもくる。


「そうよこの方は、難しい帝都の学校の中でも女の人の一番の学校で研究しているんだから!」

「すごーい」

「じゃあもしかして、オネスト兄さんより偉いの?」

「いいえ」


 私は首を横に振った。


「帝都でも、オネストお義兄様の通った大学予科にあたる様なものはまだ女には無いの」


 そうなんだ、と口々に言う中で。


「あのね、うちの町の先生にもお話してあげて! 上の学校に行きたくて自分で勉強しているんだって」

「まあそんな方が」


 向学心があるひとというのは何処にも居るものだなあ、と私はしみじみとした。

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