異世界興行CVW

@three_piece_Grizzly

第1話 プロローグ+第1話 C・V・W


 


◇プロローグ


 

 世の中の人は、応援される側と、する側、どちらかに分かれると思うのです。

 光り輝く舞台ステージに立って、たくさんの人から応援される側の人。


 対して、眩しいステージに立つその人たちを、一生懸命応援する側の人たち。

 成れなかった自分を、叶わなかった夢を託して、その人に希望を見るのです。



 

 

「おぉっと千葉選手、トップロープから華麗に宙を舞ったー! バタフライフロウー‼︎」

 

 そらを舞う長い金髪。その女性ひとはプロレスラー。

 エレガンス千葉というリングネームで、プロレス団体、CVWの大スター。


 幼馴染で二つ年上のアカネちゃんに半ば強引に連れられて、小学六年生のわたしが初めて観に来た女子プロレスの試合。

 

 アカネちゃんはプロレスが大好きで、中学生になって道場へ通い始めたのも知ってました。


 わたしはと言うと、自分の体が小さいこともあって、それほど格闘技には興味を持てなかった。


 そう、この人を見るまでは……。


「千葉、そのままフォールに行ったー‼︎」


「カウント入るーっ! ワンッ! ツゥウー! スリィイーー‼︎」


 カンカンカンカン‼︎


 響き渡るゴング……湧き上がる大歓声、舞い散る紙吹雪とカラーテープ。


「ベルトを懸けたタイトルマッチ、26分34秒、バタフライフローからの片エビ固め、勝者…… エレガンス、千葉ー‼︎」

 

 レフェリーに片腕を掲げられ、歓声に応えるその選手は、キラキラと輝く汗が霧状に立ち昇って、オーラを纏っているように見えました。


 なんて……なんて神々しいんだろう……


 そして、わたしはなんで泣いてるんだろう……


「……の、……おい! 聞いてるか? これがプロレスだ! すげーだろ⁉︎」


 アカネちゃんが興奮して、わたしの腕を掴んで揺さぶっているのに、それでもリングから目を離すことができませんでした。


 わたしは、応援される側ではなく、応援する側でした。いつもそうだったし、これからもそうだと思ってた。でも……


 わたしもいつか、千葉さんみたくなりたい。


 いつか……必ず。


 その日、その人はわたしの憧れ―― 目標になったのです。






 

 

 わたしは野々原のの 16歳。 高校生ではありません。れっきとした社会人です。

 身長153cm 体重42kg 。 これでも一人前の…………いや、半人前?……とにかく、ちゃんと、プロレスラーです。


 初めて生でプロレスを……千葉選手を見た四年前、あの日の帰り道。わたしは興奮して、ずっとアカネちゃんに千葉さんのことやプロレスのことを、あれこれ質問責めにしてました。しつこいくらいに聞いちゃってたけど、アカネちゃんは満足気にニコニコしながら答えてくれました。


 アカネちゃんは、ご近所の幼馴染で、わたしをいつも連れ出しては一緒に遊んでくれてました。

 明るくて元気、運動が大好きで、年上のガキ大将も敵わない、男勝りの女の子だったのです。

 そのアカネちゃん曰く、「いじめっ子あいつは、すぐ蹴るとか殴るとかして、しょっ中みんなを泣かせてたけど、ののだけは絶対泣かなかった。オマエはチビだけど根性だけはある」と、わたしのことをよく褒めて(?)くれてました。

 

 中学生になったアカネちゃんが、千葉さんの所属する団体、CATキャット VALKYRIAバルキュリア WRESTLINGレスリングに、練習生として参加していたことは知っていましたが、中学卒業と同時に15歳で正式入団と聞いて、びっくりでした。

 

 ――アカネちゃんが女子プロレスラーになっちゃった!――

 

 なんていうか、もっとずっと先の漠然とした将来の夢だと思っていたものが、急に近くに感じて、ちょっと衝撃が走りました。

 アカネちゃんが小さい頃からの夢を叶えてプロレスラーになったのは、自分の事のように嬉しかったけど、すぐ側に見習うべき目標がいるって気付かされたのです。

 千葉さんが遥か未来の目標であることは変わらないけど、第一に目の前のアカネちゃんを目指すことを決意。まずはCVWの道場がどんな所なのか、アカネちゃんのツテを頼って日曜日に見学に行くことにしました。


 見学許可を得て道場の隅の方で邪魔にならないように見ていたんですが、なんと、あの千葉さんが、わたしに話しかけてくれたんです。わたしは緊張しながらファンであること、以前、試合を観て感激したこと、アカネちゃんの幼馴染で見学に来たことを伝えると、すごく嬉しそうに微笑んで握手してくれて、いつでも道場に遊びに来て良いと言ってもらえました。しかも帰り際にサインまで頂いちゃったのです! ……うふふふ、これは今でもわたしの宝物なのです。


 千葉さんもそうですが、社長さん始めCVWの皆さんは、当時わたしが中学一年生で背が小さかったせいか、すごく可愛がってくださいました。道場のマスコット、黒猫の「副社長さん」もすぐに懐いてくれて、今ではすっかりわたしの膝の上が定位置なのです。副社長さんは何年か前、どこからともなくフラッと道場にやって来て、以来居着いてしまった猫さんだそうです。

 ちなみに、CVWの社長さんは綺麗でかっこいい女性です。メガネが「デキる女性」を物語っています。胸元の大きく開いたシャツは、大人の魅力です。元レスラーだという噂で、都市伝説みたいな逸話が数々あるそうなのですが、どこまでが本当なのか分かりません。千葉さん以外、アカネさんやCVWの皆さんには、ちょっと恐れられてる?みたいですが、厳しい中にも優しさがある素敵な人なのです。


 ――あ、余談ですが、今はあの頃より、4センチも背が伸びたのです。これはとても素晴らしいことです――

 

 それ以来、毎週末は道場に通い詰めました。特に千葉さんは、他の皆さんに一目置かれている大スターなのに、わたしがいる時は必ず話しかけてくれて、技をかけさせてもらったり、皆さんとCVW特製ちゃんこをご馳走になったり、本当に親切にしてもらいました。途中から道場へ通う目的は、やはり千葉さん目当てになっちゃってました。……なんかアカネちゃん、ごめんなさいです、えへへ。

 

 その後、社長さんの勧めもあってリングに上げてもらうようになったり、皆さんと一緒に練習させてもらったりして、いつの間にか練習生みたいになってました。実際いろいろ体験してみると、この世界でやって行くのは、本当に大変な事だと分かりましたが、それでも絶対めげずにやり通すと、改めて誓いました。

 

 



 

 

 わたしが高校に進学せずにプロになることを決意して、それを両親に告げると猛反対されました。当然といえば当然なのですが……。

 どうしたら説得できるかとアカネちゃんに相談したら、


「あたしに任せとけ!」


 と意気込んで我が家に乗り込んでいきました。

 元々うちの子か?ってくらい両親とも馴染んでたので、半ば喧嘩になりながらも、臆することなく何度も訴えてくれました。

 

「のの父! 親が子供の夢を応援してあげなくてどうするんだ! ののは根性だけは、あたしよりある! パワーはあたしの方があるけどさ、でも娘を信じてやろうよ、ね!のの母! コイツは絶対挫けるヤツじゃない! ののが生まれた時から、誰よりも一番長い付き合いなんだ。このあたしが保証する! チカラ・イズ・パワーだ! 社長をここに呼ぶからさ、一度話を聞いてみてよ! 元レスラーで、いろいろスゲー話も聞けると思うよ。信じるか信じないかは気分次第だけどさ」


 最後の方は、わたしの両親より長い付き合いだと言わんばかりに、訳わかんなくなっちゃってましたが、アカネちゃんらしい力業の説得のお陰で、両親はCVWの社長さんたちの話を聞いてくれることに。

 後日、社長さんは、なんと千葉さんを連れて、直々に我が家に来てくださり、わたしの両親に、


「娘さんは体は小さいですが、人一倍の努力と根気、ガッツがあり、その姿勢は観るものに感動を与えると信じています。わたしたちが責任を持って指導いたします。どうか大事なお子さんを預からせてください」


 と二人で頭を下げてくださいました。……社長さん、千葉さん、本当にありがとうございました、感謝感激です!……でも結局アカネちゃんが言ってた、社長さんの凄い話っていうのはよく分かりませんでしたが……。


 こうして晴れて両親の許可を得たわたしは、念願かなって去年の春、アカネちゃんと同じく中学卒業と同時に正式入団となりました。

 ……とはいえ、半年前のデビュー以来、19戦、全戦全敗、前人未到の大記録を打ち立て中……なのですが……。








 

◇第一話 CAT キャット  VALKYRIA バルキュリア WRESTLINGレスリング

 

 

 今回も地方の小さな市民体育館がわたしたちの試合会場せんじょうです。

 所属選手14名プラス練習生4名、弱小団体のCVWわたしたちは、設営会社さんに頼むほどのお金はないので、全部自分達でやらないとなのです。

 明け方、というかまだ夜中、暗いうちから起き出して大急ぎで握ったおにぎりを、三時間の車移動中に頬張って、朝イチで会場入りしたら、まずはリングの組み立て。

 

 ――何が大変って、リングを支える鉄柱! これが一本百キロ近くもあって、二人で持ってもふらふらするのです!――


 リングとその周りの設営が終わったら、今度は観客席の椅子を並べ、次に物販用の売店を設置。午後の開場までに、寮で握ってきた残りのおにぎりを慌ただしく頬張って準備をします。

 開場と同時に来場客にパンフレットやブロマイド、Tシャツ、バッジなどのグッズを販売。売子はみんなで立つんだけど、一番人気はやっぱり千葉さんで、前には長い行列ができます。サインを頼まれたり、握手とツーショット撮影を頼まれたりして、和やかで良い雰囲気…… かくいうわたしも、ちょっとお客さんが並んでくれたりして、それがすごく嬉しいのです。

 

 試合はわたしが前座で一番最初。

 リングネームはそのまま「のの」。

 16歳、身長153㎝、体重42kg。

 

 リングコスチュームはプロレスラーらしくリングシューズや肘当て、膝当ては付けていますが、社長さんの強い意向で、旧型のスクール水着型コスにニーソックスで髪はツインテール縛りです。これらは商業的観点から「必須」なのだそうです。

 入場にはマントの代わりにお着替えタオルをまとい、試合の前に撮影タイムが設けられます。携帯やカメラを構えた観客の皆さんにポーズをとってアピールするのですが、恥ずかしいので何度やっても馴れません。でも社長さんは満面の笑みでご満悦みたいです。


 その後、試合が始まるのですが…… はい、今回も、負けました…… 二十戦連続の全敗記録を更新しちゃいました……………………。

 でも落ち込んでる暇はありません。自分の試合が終わったら、すぐにジャージに着替えて次の試合のセコンドに付きます。


 間もなくアカネちゃんの試合が始まります。

 

 アカネちゃん、本名「秋空茜」18歳、身長160㎝、体重52kg 。

 昔は男の子みたいなショートヘアだったけど、CVWに入ってから伸ばし始めて、今は長いポニーテールが特徴です。

 リングネーム「AKANE」 異名「くれないのダイナマイト」「バーニング・クラッシャー」

 

 家族ぐるみのお付き合い、わたしのお姉ちゃん的存在で、何より、千葉さんやプロレスに巡り合わせてくれた、わたしの恩人。プロレスに賭ける情熱は、誰よりも強いのです。

 

 ゴングが鳴ります。相手選手は大きくて、強そうです。アカネちゃんは平均的な体型だけど、女子レスラーの中では大きい方じゃないです。でも、パワーはCVW内で評価が高く、若手有望株なのです。

 序盤はアカネちゃんの攻撃が通じにくくて苦戦してたけど、相手のスタミナが切れてきた後半から、持ち前のパワーと瞬発力を発揮して、フィニッシュの「必殺AKANEラリアット」が炸裂して逆転勝ち!

 アカネちゃんは、コーナーロープに登って観客席に向かい、「奇跡の逆転ファイター‼︎」と叫んで会場を盛り上げてました。


 

 次の試合はラトさん。

 

 ラトさんはアカネちゃんより一つ年上ですが、入団時期が一緒の同期生なのです。

 大阪出身のダイナマイトバディ(!)可愛い関西弁とふんわり外跳ねショートボブの髪が特徴で、たこ焼きが大好き。

 本名「大河らと」さん、19歳、身長162㎝、体重55kg。

 リングネーム「タイガー・ラト」 異名「サブミッションの虎」「浪速のたこ焼き娘」「ジャベの阪急うめだ店」

 

 わたしとアカネちゃんとラトさん三人で、寮で相部屋生活をしています。

 ラトさんは、わたしの脳内にある関西弁の浪速っ娘というイメージ、「ボケとかツッコミの賑やかな人」を覆し、ご本人は至って穏やか、のんびりした女性でした。でも独特の間と感性はさすが大阪?を感じさせます。アカネちゃんと同じく、若手有望株と期待されていて、CVW選手でお胸が一番大きいのです。わたしなんて…… うん、それは置いておきます。

 

 対戦する相手は、これまた大きくて強そうな選手。どっしり重いパワータイプです。でもこういう相手にこそ、ラトさんの技が活きるのです。最初はやっぱり、力任せの打撃や強引な投げで攻めあぐねるラトさんでしたが、相手の攻撃を流して関節をとりに行き、何度も膝に集中してダメージを与え、最後は「たこ焼きローリング・クレイドル」からの「膝十字固め」、相手のギブアップで勝利しました。

 


 その後、他の先輩たちも試合が終わると、みんなで今日のメインイベントのセコンドに付きます。

 試合の最後を飾るのは、わたしの憧れ、CVWの誇るスーパースター、千葉さんです。

 

 

 本名「千葉英玲奈」さん、21歳、身長164㎝、体重54kg。

 リングネーム「エレガンス千葉」 異名「金色こんじき戦乙女バルキュリア」「Queen of the Wrestling」「一人CVW」などなど。

 白金プラチナに近い長い金髪に美しいお顔立ちのハーフで、お父さんがアメリカ人なんだそうです。

 均整の取れた美しいプロポーション、大きいけど大きすぎない理想的なお胸、そして長いおみ脚。もう、全部が全部完璧パーフェクト超人なのです。プロレスだけじゃなくて、女性ひととしても憧れる、目標…… というには烏滸がましいけど、少しでも近づきたい、遥かなる頂き、それでも目指すべき最高峰なのです。

 

 対戦相手はパワーとスタミナのある重量級選手。

 ゴングと同時に両者組み合いロックアップ。力比べからの打撃、投げへとスピーディーに変化します。相手の投げ技から体勢を入れ替えて投げ返したり、ロープリバウンドからのスリングブレイドで投げ返す。

 そしてカウンターだけじゃなく、ロープやコーナーポストを使った空中殺法は、最も千葉さんらしい、華麗でダイナミックな技の連続なのです。全く途切れることのない技の連携は、いったいどれだけ練習すれば辿り着けるのだろう……。

 そして最後は、高難易度技のカナディアン・デストロイヤーで弱った相手に、千葉さんの代名詞、フィニッシュホールドのバタフライフローで圧巻の勝利。お客さんの興奮はいつまでも冷めやらず、声援が鳴り止みません。わたしもセコンドという立場を忘れて、一人の観客として魅入ってしまってました。




 


 全部の試合が終わり、お客さんがみんな帰ったのを確認して、設備のバラシ作業に移ります。

 長かった怒涛の一日の締め括りです。でも最後の最後、この積み込み作業が、実は肉体的に一番辛いのは考えない様にしています。

  

「アカネちゃん、今日の試合も、お客さん盛り上がってくれてたね」

「おまえの負け試合もすっかり定番で盛り上がったしな」

「うぅ〜……それは言わないでよ…… 」

「あたしらも、もっとデカい会場ハコで試合してみたいよな〜、武道館とかさー。こないだの千葉さん、すげーよな〜、他団体の交流試合に呼ばれて国技館だもんな〜。なあ?ラト」

「せやな〜…… まぁウチらにはまだまだ先の話やけど」

「でもっ!…… わたしはともかく、アカネちゃんやラトさんなら、そんなに遠くないんじゃ……」

「おまえたち、無駄口叩いてないで手を動かせ、会場の閉館時間があるんだから、それまでに片付けてしまうぞ」

「あ、すみません千葉さん、えへへ」


 試合直後という意味では、メインイベンターの千葉さんが一番疲れているはずなのに、後輩への指示だけでなく、率先して一緒に片付けをしてくれるって、やっぱり凄い人です。


「のの、私と一緒にポストを運ぼう」

「はい!……でも、あの、わたしとじゃバランスが悪くて、千葉さんの方に負担が……」

「ぜんぜん大丈夫だ、むしろ重さは低い方にのし掛かってしまうんだ」


 自分の背の倍もあろうかというコーナーポストを二人がかりで運ぶんですが、背が低いわたしの方へ、斜めに傾いた鉄柱の重みが掛かかって、いつもヨロヨロしているのが危なっかしくて、千葉さんは見ていられなかったんだそうです。


「わたしに任せろ。ののは私をフォローしてくれるだけでいい」


 そう言って、千葉さんは鉄柱の先頭ではなく、前三分の一辺りを担ぎ、後ろが軽くなるように持ってくれて、わたしは支える程度の負担で済むようにしてくれました。……あぁ、千葉さんの優しさが身に染みます……。

 ふと思ったんですが、もしかして千葉さんは、一人でもこの鉄柱を持ち運べるのかもしれません。下手すると、わたしをぶら下げたまま運べるかも……なんて。

 


 鉄柱が終わったら鉄骨フレームやワイヤー、マット、キャンバスシートに体育マットなどなど、車へ積み込む作業を続けていきます。

 ようやく全てを終えた頃には、再び疲労困憊になるわたしたちなのでした。



 


 わたしたちは車の側で、お手製スポーツドリンクで一息つきながら、会場の管理人さんに挨拶に行った社長さんの帰りを待ちます。

 

「千葉さんはいいよな〜、他団体の交流試合に呼ばれたりすることもあるもんな〜」

「アカネも努力を続ければ、必ず大きな舞台に立てる。焦らず精進しろ」

「わたしがアカネちゃんと一緒に、初めて観に行った千葉さんの試合も、大きな会場で照明とかすごかったな〜」

「あ〜あれな、幸楽園ホール。CVWのベルトを懸けた BRMとのタイトルマッチ。燃えたな〜。あれでののもプロレスに目覚めてくれたからな〜、あたしの作戦勝ちだよな」


 ――なんですと⁉︎ あれは、わたしを引き込むための作戦だったのか。……うん、でも、感謝してます、はい。


「そうだったのか、それはお手柄だぞアカネ」


 千葉さんが優しく微笑む。アカネちゃんの「お手柄」の「成果」がわたし? なんて、畏れ多いことを考えて、慌てて話題を千葉さんの方へ戻します。

 

「でもほんと凄いです! CVW無差別級王座も設立以来不動ですし。わたしもいつか千葉さんみたいに強く、カッコよくなりたいです……」

「ののは、ちんまいから人一倍頑張らなアカンなぁ」


 ラトさんがわたしの頭をポンポン叩きながら笑う。 うぅ…… 身長はまだ、これから……だと思いたい、です。

 

「大丈夫だ、ののには光るものがある。私は応援してるぞ」 

「はひ、千葉さぁん……頑張りまひゅ……」


 はぅぅ…… 千葉さんがかけてくれた優しい言葉に思わずウルウルします。例え嘘でも嬉しい…………


「あーあ、もっと手っ取り早く、こう、スゲー感じでブワァーっと強くなれないかな〜」


 アカネちゃんの言葉に千葉さんが苦笑しながら、ゆっくり噛み締める様に答える。


「強くなるのに近道は無い。日々鍛錬を繰り返す、これしか無いんだ」


 そんなわたしたちを、さっきまで車の座席で眠ってた、黒猫の「副社長さん」が見つめていました。

 

 


 

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