ボクに乙女心なんてわかるわけないだろ

郡冷蔵

断章 ボクに乙女心なんてわかるわけないだろ

 ……ボク、いったい何してるんだろ?

 ボクは星辰魔法勃興による動乱の世の中にあって、日本の治安を堅守する秘密警察組織、客星機関のエージェント、Dシックス。ひょんなことから、いまは機関の上司の娘さんの周辺警護を任せられている。

 しかしその詳細はといえば、なぜか女装して女子高に通えというもので。

 あまつさえ女の子として、警護対象と後輩女子にブティックに連れ込まれて、女の子女の子した服を着させられている。


「さすが優センパイ! お人形さんみたいです!!」

「いや、ちょっとしたノリだったんだけど、恐ろしいほど似合ってるね……」


 本当に。


「センパイセンパイ。次は、これなんかどうですか!」

「ありだね。莉音ちゃんはさすがセンスがいい」


 どうして、こうなった?


「というわけで、次はこれを着てみなさい」

「……あの、つばささん。助けてくれてもいいんですよ」

「えー? 聞こえなーい。ていうかどうよ。いろいろ可愛い恰好してみてさ。そろそろ乙女心も芽生えてきたんじゃない?」


 ボクの護衛対象であり、当然すべての事情を、すなわちボクが男だと知っているくせに、つばささんはむしろ莉音さんに先立ってボクを貶めてくる。

 いよいよ我慢の限界だった。


「ボクに乙女心なんてわかるわけないだろ!? だってボクは──」

「しーっ。莉音ちゃんに聞こえちゃうぞ?」

「~~~~っ!!」


 感情の発露を圧し殺した声にならない悲鳴を上げながら、ボクは試着室に押し込められる。試着させられているいかにもかわいらしい純白のワンピースはもちろんのこと、手に持たされたゴスロリ服も、壁のハンガーにかかっている学校の制服も、そもそもレディース店の試着室を使用していることそのものが、ボクが女の子であることを前提にしている。気が狂いそうだった。

 ああ。本当に、どうしてこうなってしまったのか。

 現実逃避に走ったボクは、すべての発端となったあの一夜の事件を思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る