『反抗期到来?』(2)

オランとリョウは、寝た体勢のままで呆気に取られていた。

だが、すぐにいつもの余裕を含んだ顔に戻る。


「……それで?悪魔のオレ様に何を望む?」


何故オランは、ここで揚げ足を取ってしまうのか。

アヤメは起き上がると、ベッドから降りて立ち上がった。オランはベッド上で上半身を起こす。

涙をこらえて、精一杯の虚勢を張った。その口元が微かに震えている。


「………もう、一緒に寝ない」


アヤメにとっては思い切った、最大級の反抗を見せたつもりだった。

だが、オランは落ち着いている。むしろ面白いモノを見た時の顔をしていた。正真正銘の悪魔だ。


「へえ?出来るのか?」


アヤメが一人では眠れないという事は、オランが誰よりも熟知している。

心で抵抗しようが、身体が求めてくるだろう。その逆もまた然り。

オランが注いで来た『調教』という名の愛情はアヤメの心と身体を縛り付け、決して逃れられない鎖となった。

だから、引き止めはしない。そもそも、アヤメの自由を奪おうなんて一度も思わない。

そうしたいのならば、させてやる。結果は見えているのだから。


「一人でも寝れるもん……」


アヤメにも自信がないのか、やはり子供のような捨て台詞だ。

だが、アヤメはベッド上で身を起こしているオランの正面に立つと、身を屈めて顔を近付ける。


「おはよう……」


そう呟くと、いつもより口を尖らせながらも、オランに口付ける。

こんな修羅場でも結局、アヤメは『朝のキス』を欠かさない。哀れなほどに従順だ。

意地悪なオランは、アヤメの後頭部を片手で押さえて、強く引き寄せた。

驚いたアヤメは一瞬、身体を強張らせた。


(足りなかったのか?………なら、教えてやる)


決して逃がさないとばかりに、いつもよりも深く長く、アヤメの唇を縛り付けた。


「……?………ふ…ぅ………」


塞がれたアヤメの口から、甘い吐息が漏れ始める。

控えめに閉じた唇を強引にほどかれて、同時に身体の緊張もほぐされていく。

だが、今度は全身に力が入らない。思考能力も働かない。


(本物の…………快楽ってヤツを)


ようやく長い束縛から解放されると、アヤメは頬を紅潮させて小さく息を吐いた。

焦点が合わず、甘い余韻から意識が抜け出せないでいる。

オランは意地悪そうに笑いながら、いつでも再び口付けられそうな至近距離で囁く。


「どうだ…………良かったか?」


もはや言葉攻めだ。

残る感触、深紅の瞳、甘い囁き、快楽の味。5感全てを支配され、身動きすら出来ない。

そんなアヤメが答えられるはずもない。口を開いてしまえば、彼の思惑通りの答えしか出ない。


「……知ら…ない……もん……」


やっとの思いで名残惜しさを振り切ると、アヤメは裸足のまま走り出して、逃げるように寝室から出て行った。

それに続くように、リョウが急いでベッドから飛び降りると、アヤメの後を追った。


「お兄ちゃんの、ばかー!おにーあくまー!!!」


完全にアヤメの真似をしながら、パタパタと走り去って行った。

オランは何も言わずに、余裕の構えで見送った。

二人とも寝間着のままなので、またすぐに戻って来る事になるだろう。

オランは再びベッドの上に寝転がり、仰向けになった。


……これが『反抗期』なのだろうか。


所詮は17歳の少女。この程度は想定内だ。

意地を張る姿も、少し怒った顔も、拗ねた顔も。まだ見た事のないアヤメを知る度に快感を覚える。

全てを知り尽くして、全てを支配したいという欲望は尽きない。


「………可愛いな」


本当に、この悪魔は、救いようがない。





どうせ夜になれば、アヤメは自分の元へと戻って来る。

何故ならば、アヤメは知ってしまった『快楽』を忘れる事など出来ないのだから。

この続きは、今夜だ。

今日は特別な夜になりそうだ。どのようにして可愛がってやろうか?

そんな事ばかりが、オランの脳内を巡っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る