第114話 小手調べ
「……急に何を言っているのだ!? 武尊!」
重蔵がそう叫ぶ。
しかし、木刀を握り、構えるその姿にもはや油断はなかった。
いや、最初から油断はしてなかったな。
だからこそ、俺が急に斬りかかっても問題なく対処し、弾いた。
もちろん、初撃はあくまで牽制でしかなく、頭を戦闘モードに切り替えて欲しかったがための軽いものだったが、それでもその辺の中位鬼くらいなら首を落とせるくらいの力は込めていた。
やはり、流石は霊剣術の東雲家の頭領、というわけだ。
「俺は、重蔵様。あんたが言ってることをどう受け止めたら良いのか、よく分からないんだ……。本音で言っていたのか? 心の底から後悔しているのか? 今のあんたは……まともなのか? それを、俺は知りたい」
「掛け値無しの本音だった! 別にこのようなことをせずとも、聞けば何であろうと答える……!」
「それも、分かった。だけど……それじゃあ、何か物足りないんだ。俺の中にある……怒りが、出口を探してるんだよ……」
「怒りだと……?」
俺の言葉に困惑する重蔵。
それはそうだろう。
俺に恨まれる心当たりなんて一ミリもないはずだ。
でも俺にはあるんだ。
恨む理由が、怒りをぶつけずにはいられない理由が。
だから……。
「黙って戦え、重蔵。俺は、もうあんたを殺す気でやる」
「……ッ! くそっ……!」
構えて真気での身体強化を強める俺に、もはやまともな言葉は通じないと理解したらしく重蔵も木刀に強力な真気を注ぎ始める。
当然、身体強化もすでにしていた。
一瞬でそれを終えられる程度の戦闘経験を彼はしてきたのだと分かる。
ただ、それにも増して、今度は本気だと分かるものだ。
重蔵が握っているのは木刀とはいえ、命中すればただでは済まないと理解できる。
気術士が真気を込めて武具を操れば、ただの木刀でも真剣の攻撃力に勝るからだ。
それが東雲の当主であれば、その辺の岩くらい簡単に一刀両断する。
けれど、それは俺も同じ事だ。
「……行くぞ!」
そして、俺は重蔵に向かって走る。
気踏術を使った高速の移動だが、重蔵が使うものとは異なる、鬼神流のもの。
鬼神流とは、あの大封印で温羅から学んだ技術体系のことだが、別に彼が名付けたものではないらしい。
彼もまた、誰かに学んだと言っていたが、その相手については語りたがらなかった。
あの大封印の中では真気なんて使えなかったが、どれも真気との相性が良く、使えるものばかりだった。
鬼が使っていたから、本来は妖気を活用するのが正しいのだろうが……真気での代用も普通に出来ることを、転生して訓練し、俺は理解した。
そして、この流派を、当然ながら重蔵は全く知らない。
見せたのは……今日の朝の、あのドームでの一戦だけだ。
だから、急に懐まで入ってきた俺に目を見開き、
「……ぬぅッ?!」
と言いながら、上段に構えていた木刀を振り下ろす。
俺と重蔵の身長差は結構なもので、俺としては下から切り上げる方がやりやすい。
もちろんのこと、そうなるとただでさえ大きい腕力差が生じるのが普通だが……。
「……馬鹿な!!」
振り下ろされた重蔵の木刀を、俺は
上に上がり、がら空きになった胸元に木刀が伸びる……と思った瞬間、重蔵は思いきり地面を蹴り、後退する。
俺の木刀は残念ながら空振りし、距離を開けられて仕切り直しとなる。
「まぁ、そうだよな……この程度じゃ、足りないか」
俺がそう呟くと、重蔵は冷や汗を垂らしながら、
「……武尊。お前、それだけの力をどこで……それにその剣術。東雲のものでもなければ、北御門のものでもない。にもかかわらず、極めて洗練されておる……」
「知りたいなら、俺に勝ってからにしろ。あんたにそれが出来れば、だがなっ!」
そして、もう一度俺は重蔵に攻めかかかる。
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