第56話 呼び出し

「……とりあえず、結界でも張っておくか。二人とも、そろそろ辛いだろ?」


 俺がそう言うと、咲耶と龍輝に尋ねると、二人とも頷いて答える。


「……かなり辛いですが……武尊様は平気なのでしょうか?」


「結界って……そんなもの張れるならありがたいけどよ……」


「俺の方は問題ない。結界については、最近、北御門家の書物を読んで練習していてな。その程度だから出来の方は期待しないでくれ……でもまぁ、気休め程度にはなるだろうさ」


 言いながら、気術を形成していく。

 気術、と一口に言っても色々な技法があるわけだが、今回使う結界術は基礎の基礎だ。

 以前、俺が死ぬ原因になったあの大規模結界術とはまるで異なり、あくまで個人の規模でしかないもの。

 ただ、妖気や霊気の類を通さなくなる程度の効果しかない。

 それも、攻撃をされたら軽く壊れるくらいのものだが、今はその危険はないと思うので、問題はない。


「……《気盾》、っと……」


 真気を体外に出し、その真気を薄く、俺と咲耶、それに龍輝を囲うような半球状に形成する。

 それだけのことだ。

 ただ、基本的な技法なので、やりようによっては応用の幅も広い。

 物理的なものに対する効果も付与しようと思えば可能だ。

 けれど、今はやはり必要ないので、この程度でいい。

 

 結界が張られると、咲耶と龍輝はあからさまにホッとしたような表情で、


「……普通に息が出来るようになりました」


「これ、武尊の結界のお陰なのか……この半透明の膜みたいなのがそれ?」


 そんなことを言う。


「あぁ、結界の技術は割と簡単だから、二人もそのうち覚えるといいぞ」


 とはいえ、まだ無理かな?

 いや、人形術にあれだけ精通しているのだから、やり方さえ分かればすぐだとは思うが。

 まだ教わっていないのは、これは基礎とは言え南雲家の技法だから、本来はそう簡単に襲われるものではないからだな。

 むしろ、もう少し複雑で、気術陣化したものの方を先に教わる。

 こっちは安全性も高い上、気術陣に描いてある以上のことが出来ないからな。

 それにかなり詳しく分析しないと構造も分からないように作ってあるものだ。

 南雲家としても、外に出しても構わない技術なのだということだな。

 俺がやってる方は、自由度、応用度が高く、かつここから自分なりに発展させていくことも可能だ。

 なんでそんなものを俺が身につけられているかと言えば、北御門家の資料にあったからで、これは当主しか見れないものだ。

 この事実から、北御門家が四大家の始祖という話はかなり信憑性を感じるな。

 他の家の技法とされているものについても、やはりかなりの情報があったから……。

 問題はミミズののたくったような字の古文書ばかりだということだが、俺は前世において北御門の教育を受けている。

 その中には古文書の読み方などもあったので、なんなくとまでは言わないものの、時間をかければ普通に読める。

 勉強しておいて良かった……。


 そんな俺の言葉に、二人は、


「……簡単に言いますけど、かなり難しそうに見えるんですが」


「そもそも結界って南雲家のやつじゃ……」


 と言うが、俺は二人に言う。


「そこまでじゃないから二人なら練習すれば必ず出来るぞ。問題は……確かに南雲のが文句つけて来そうなことだが、そういう場合には色々試行錯誤して見つけたんだ、とか言えば良い。実際、やってみれば出来ることもありそうなやり方だしな。今の主流の気術陣頼りの気術に慣れきってると中々難しいかもしれないが」


「そういうものか……! 頑張ってみるぜ」


「おう。あと、そもそも出来るだけ人目につくところでは使わないってのも大事だな。でも必要なときには普通に使え。命の方が大事だ」


「だよな……」


「私も納得しました。ところで……どうされたのですか、先生?」


 と、咲耶が俺の後に視線を向ける。

 先ほどから彼女がこの教室に近づいていることは理解していたが、他の生徒たちを帰宅させて、最後に残った俺たちのそれに当たるために戻ってきたのだろうと気にしてなかった。

 しかし、咲耶の質問はそういう感じではないな。

 振り返って見てみると、確かに夢野先生の表情は少しばかり焦っている様子だった。

 俺も夢野先生に尋ねる。


「何かありましたか?」


 すると彼女は、


「……さっき、もしかしてなんかした?」


 と言ってきた。

 俺は特に変なことをしていないので首を傾げると、龍輝が、


「いや、結界張っただろ」


 と言ってきたので、あぁ、そうだったなと思って言う。


「龍輝が言ったように、少しばかり結界を張りました」


「どうして……?」


「いえ、裏庭から流れてくる霊気の圧力が凄いので、二人が辛そうだったものですから、軽減しようと」


「そういうことじゃなくて……まぁ、それはいいか。それより、それが原因だったのね。理解したよ」


「どういう意味ですか?」


「それがね、話を聞いてくれなかった小龍が、急に霊獣医師様に話しかけてきたらしくて……裏庭に漂う気と同じ気を持った者が敷地内にいるから、連れてこいって言ってるみたいなんだよ」

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