未来予想図 ~生きるということ
仲津麻子
第1話プロローグ
夫が亡くなってから、もう八年が過ぎた。
病気ばかりしていた私が後に残るなんて、考えたこともなかったけれど。別れは突然やってきた。
あの当時は私も、まだ少し、気力も体力も残っていたので、動かない体に鞭打ちながら、夫を弔い、後始末を終えた。
夫の残してくれたものは僅かだったが、贅沢をしなければ、細々と暮らして行ける程度の蓄えはあった。
今、
体力の衰えた体では、家の維持は難しく、さほど広くもない庭の、伸びすぎた冬枯れの雑草は倒れて、築七十年に届こうとする家は、見た目にもわかるほどに痛んできた。
部屋の板壁も傷だらけだ。柱は、かつて飼っていた猫が爪研ぎに使っていたため、少し抉れるほどにガリガリと毛羽だっている。
子供の頃から絶えることなく、入れ替わりそばにいた猫だったが、五年前に最後の子が旅立ってからは、飼うのをやめた。
年老いた私が、世話ができなくなることを危惧したのと、万が一私が先立ってしまったら、生きて行くすべをもたない飼い猫が、餓死する未来しか思い浮かばなかったからだ。
そのため、今はひとり。
かつては祖父母や父母、私たち夫婦に妹、大家族で住むように建てられた家は、ガランと広く、寒々としている。
今私が生活しているのは、茶の間と台所の二つの部屋だけだ。
茶の間のテーブルの前で、スイッチを入れることも少なくなった古いテレビに向かって座り、ノートパソコンで、ポツポツと文章を綴っている。
私が綴るのは
幼い頃から幻想は近くにあった。現実の世界の裏側に、私の脳に刻まれた
私はそれを、心のおもむくままに書き続けて来たが、死を間近にした今に至っても、完全に書き尽くすことはできていない。
結局は、私に表現することはできないのかもしれない。
あきらめに似た焦燥を感じながらも、キーボードを叩かずにはいられない。
書くための苦しさも、焦りも、不安、心細さも、そして同時に感じる愉しさも、高揚感も、恍惚も、そのすべてが書くための理由であるのかもしれない。
孤独な私の心が凍りついてしまわないように。
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