表裏一体

氣嶌竜

第1話 弟

私には、4歳下の弟がいる。名前はM。大学1年生。髪の毛を茶色に染め、おしゃれに目覚めた普通の大学生である。


この弟が可愛くて仕方がない。2歳や3歳の小さい子、小学生くらいまでは弟が可愛いという人もいるだろう。しかし、私は今の弟が最高に可愛い。新型コロナの影響で家にいる時間が多くなったのを追い風に、毎日弟を異常なほど可愛がっている。


弟がこの世に誕生してから、ずっと一緒に生活してきた。弟が泣きながら幼稚園に行く姿や、学生服を着た中学生の姿をはっきりと覚えている。


だが、なによりも今が一番可愛い。はっきりとした理由は分からないが、とにかく可愛い。そんな弟の可愛いポイントを紹介しておこう。


弟は色白で、顔が小さく見える。遠くから見ると、餅のような顔をしている。弟を呼ぶと、面倒くさそうな顔をして私の元にやって来る。餅がどんどんと迫ってきて、近くで見ても餅のような顔をしている。


歯も小さくて可愛い。弟は小さい頃、歯と歯の間がすき間だらけで、よく食べ物が挟まっていた。チキンを食べようものなら瞬殺で、ガブっと一口かぶりつくだけで歯の間に挟まる。小さな手を駆使し、泣きそうになりながらモゴモゴ食べ物を取り出す姿は、まさに絶品。可愛いの最上級とも言える。


その歯が成長と共に徐々に大きくなり、今はほとんどすき間がなくなった。その分、まるで見本のような歯並びが完成し、口を横に広げて見せてもらうと、少しの歪みもなく歯がずらっと並んでいる。集団行動のように列が乱れず、思わず見とれてしまうほどだ。


一方、私は歯が収まりきらず、ガタガタだ。小さい頃は綺麗に収まっていたが、成長するにつれて歪みが生じてしまった。私は弟になにかと理由をつけて口を広げさせ、ほぼ毎日弟の歯を眺めている。


「あれ?虫歯じゃね?」


「なにか歯につまってない?」


脅すような口調で弟に口を広げさせるが、もう19歳。小学生の頃までは通用した技が、ここ数年は全く通用しなくなった。しかし、長年続けてきたせいか、ここ最近の弟は観念したようで、面倒くさそうな表情をしながらわずかに口を開けてくれる。


わずかに見える歯は最高だ。うすピンク色の唇の間に、純白な歯が見え隠れしている。秘宝を見つけたような気分で、高揚感が溢れてくる。



この小さな歯で食べ物を噛み、飲み込んでいるかと思うと弟は利口だ。自分で食べ物を噛むと選択し、飲み込めると判断した時に飲み込む。あの小さな歯と、豆粒ほどの脳みそで処理しているかと思うと、弟は天才かもしれない。


弟との生活に飽きることはない。常に新たな可愛い素材を提供してくれる。その1つが、一緒に買い物に行くときだ。



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