明暗
夏目漱石/カクヨム近代文学館
一
医者は
「やっぱり穴が腸まで続いているんでした。この
「そうしてそれが腸まで続いているんですか」
「そうです。五分ぐらいだと思っていたのが約一寸ほどあるんです」
津田の顔には苦笑の
津田は無言のまま帯を
「腸まで続いているとすると、
「そんな事はありません」
医者は
「ただ
「根本的の治療と云うと」
「
津田は黙って
津田は袴を
「もし結核性のものだとすると、たとい今おっしゃったような根本的な手術をして、細い
「結核性なら駄目です。それからそれへと穴を掘って奥の方へ進んで行くんだから、口元だけ治療したって役にゃ立ちません」
津田は思わず
「
「いえ、結核性じゃありません」
津田は相手の言葉にどれほどの真実さがあるかを確かめようとして、ちょっと眼を医者の上に
「どうしてそれが分るんですか。ただの診断で分るんですか」
「ええ。
その時看護婦が津田の
「じゃいつその根本的手術をやっていただけるでしょう」
「いつでも。あなたの御都合の好い時でようござんす」
津田は自分の都合を善く考えてから日取をきめる事にして室外に出た。
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