第5話:ふえーん、ペット風情にレベルで劣るか弱い乙女だよー
サバイバーという職業は本体性能自体は低く出来ている。
職業スキルは『マッピング』『罠』『潜伏』『調合』『空間把握』『空間機動』『サバイバル』の7つで、それらは全て"探索を快適にするスキル"であり、例えば剣の扱いが上手くなる『剣術』みたいな"戦闘力に直結するスキル"は無い。
では何がサバイバーを強職たらしめていたか?
それは初期配布される"サバイバルキット"の内容がぶっ壊れだからである。
「視界不良この上無し」
有り金全て叩いてベルトとレッグホルスターを買い、ベルトには鉈とナイフのストラップを、ホルスターにはプレゼントボックス二種に入っていた回復ポーションをセット。
土地勘で門前まで歩き外の景色を覗けば、出掛ける気にならないであろう漆黒が広がっている。
プレイヤー人口広しと言えど、深夜に狩りに出掛ける馬鹿は私くらいのものだろう。
いや馬鹿じゃないが???
「夜は昼より平均レベル5は上がるから経験値的には旨いんだけどね」
軽くストレッチ。
アバターの可動域は現実の体に依存しない。
それを改めて頭に
うむ、実に気持ち悪い具合の柔らかさだ。タコか何かだろうか? 誰が軟体生物じゃタコ。
「じゃ、行こうか」
ある程度可動域を再認識し、アイテムボックスから小さなランタンを取り出して点けてみる。
途端に周囲が明るく照らされ、大体半径10m程度の視界が開けた。
「流石のサバイバルキット先輩だぁ」
腰に吊るし、茶色と認識出来る土を踏んで暗闇を歩き始める。
風の音と夜の匂い、そして冒険が始まったなーという感触が風となって肌を触る。
まぁ別段、心とか動かないんだけど。寂れたもんよのう私の感受性……
「きゅい!」
「
反射的に音のした場所に鉈をぶん投げ、視線が追いついた先にいたのは首が飛んでいる最中の経験値。
『うさぎ:Lv7』というネームプレートを頭上に付けた、草を食んでいたらしき小動物が声の主だったらしい。
今周におけるファーストエンカウントだった。
「尚過去形。……てか癖で殺したけど、これプレイヤーだったら面倒臭かったな」
鉈を拾う頃には『レベルが上がりました』のアナウンスと共にポリゴンとなって消えるかつて兎だったもの。
逃げないし警戒心も無く、撫でても嫌がらない何故か平仮名のうさぎさんは、経験値が不味いため専ら料理人の練習素材としてしか狩られてなかった記憶がある。……ああ、確か無限に触れ合えるもふもふ楽園としてデイブレのアイドル的存在とも聞いたわ。
「てかレベルが生意気に過ぎない?」
ふえーん、ペット風情にレベルで劣るくらいか弱い乙女だよーって感じ。これは儚い美少女の可能性がある、早く誰かに守ってもらわなきゃ。
ナチュラルに狂うじゃん寝起きかな?
「狂ってるやつが更に狂ったらそれはもう収拾つかないんよ、いや狂人じゃないけど」
意味の無い思考を脳死で吐き出しながら、レベルが上がっていたのでステータスポイントをSTRとAGIにぶち込んでおく。取り敢えずこの二つがあれば大抵何とかなる教の信者が私だ。
火力だけを追い求めるならSTR
AGI極もありっちゃありだけど、すると今がクソだるいから却下なんよなぁ。
100レベまで鍛えてから振り直しに行く方が効率的だし、今は気にせんでいいでしょう。
「ヴァウッ!」
「あらこんばんは」
仕掛ける前に喋った
いや、一応ここで最低限レベリングも可能だけど、生憎と安定も安全も私の嫌いな言葉だ。
じゃなきゃ途中離脱せずこのゲームを最期までやってないし、時間は有限(特に空腹ゲージ)だ、稼ぐなら美味い場所に籠るのが一番でしょ。
「夜明けまでにボスに逢いたいなー……とか思ってんだけど、図ったように湧くね君ら」
視界が制限され、ただでさえ移動速度が落ちるってのに、ランタンが誘蛾灯のように働き図ったように兎の集団が寄ってくる。
色とりどりのうさぎさんたちは態々近付いてきたのに何故か呑気に草を食んでおり、見る人が見ればもふもふパラダイス不可避な光景を作り出していた。
いや経験値にしか見えんけど。
「まぁ、据え膳食わねばなんとやらって言うし」
ナイフを逆手に、長鉈を順手に。
さっさとあの場所に行きたいには行きたいが、向こうから来る経験値を態々スルーする理由も無い。
だって、目の前にいるんだもん。
食べてあげなきゃ、失礼だし?
「しろうさがレアだっけ、どうせなら出ないかな?」
大体兎、時々狼。そんなエンカウントを成す始まりの草原を、私は乱雑に殺戮しながら駆け出した。
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