第24話 宙に架かる願い事
「今僕たちには休息が必要だ。……とりあえず今のこの状況を整理しよう。」
「うん、そうだね。ありがとう。」
その言葉、すごく助かる。
「事の始まりは君たちが僕ら地球人を調べるためにこっちに来て、地球のあらゆる物体の時間を操作したところから。僕らにこの調査自体をを悟られないために5秒を50年にしたんだよね?」
灰色くんの落ち着いた口調と私の背中に置いてくれた右手。
それを聞く内に締め付けられていた胸の力が少しずつ緩んでいった。
「……」
私は静かに頷いた。
「でも僕だけは、少なくとも見た範囲の地球の人間でも僕は、その影響を受けなかった。この理由は君たちにも分からない。」
「そう。」
「通常通りの活動ができる僕は惑星ラノハクト?だったっけ?高校の屋上でどうしてかそんな宇宙の知らない場所からやってきた異星人に出会ってしまった。この時間が止まったような世界で。」
あぁ、あったかい。そう……そうなんだよ。
「……迷惑かけてごめんなさい」
「君が謝ることじゃないよ。……そしてそこから、まぁ、色々あって喫茶店で君の友人と出会い、事情をある程度教えてもらった後、君らは調査を再開。この端末を使って通話を繋げたまま店の外へ出た。こっちの文化を教えながら、しばらく経ったその時、君以外の異星人、皆の動きが止まる。おそらく……本来は時間操作の影響を受ける範囲は地球人とかに対してだけのはずだったのに、あの瞬間から何故かその効果が同じように適用されて動きが止まってしまった。」
「うっ。」
「で、そうなった原因は不明。って事でしょ?」
「そうだね。……その通りです。」
本当に優しかった。
涙を堪えるので精一杯の私。
彼だって滅茶苦茶なことに巻き込まれているのに。理解するのに手一杯なはずなのに。いつの間にかそっと、側に居てくれているんだ。
「はは……」
嬉しくて空しくて、それでも悟られないように少し笑った。
「……どうしてこんなことに」
……。
それ以降は特に喋ることもなく、
世界が元に戻るまでぼーっと愚かに、この古ぼけた建物を眺めていた。
何年かぶりに夢を見ている気分だ。
ただ皆が、三人がこの瞬間にもいつものように自然に動き出してほしかった。
固まった作り物の現実が動き出して欲しかった。
──
複雑な作りになっているなぁ。
あの小さな細工たちは全て手作業で加工されたのだろうか──
弛んだ太い紐のような物が柱から柱へと吊られていることに気づく。
こんなに大きなのがすぐ側にあったはずなのに見えていなかった。
果たして何の意味があるのだろうか。
あの子たちなら聞いてたんだろうな。
でもなんとなくこの場所にただ寝転んでいるだけで落ち着く気がする。
はぁ
何も考えれないまま虚らを見上げていると、瞬きの前まで明るかった空がどんよりと薄暗くなっていくのがわかった。
???
「……なんだあれ?」
彼の言葉を聞く前に
「な、なにあれ……」
嫌な気配を感じ取った私は階段まで駆け出して雲空に指し──え、
……私の右手。
肌の色がずいぶんと元の色へと変わりきっていた──。
いつの間に……そんな……
目線の先の天高く。
陽を覆い地を見下すようにそれは動いていた。
確かに。嘘じゃない。何も聞いてない。
……あれは、へ!?
「あ、あれって[トリアンドルス]じゃないの!?」
「トリアンドルス?」
「なんと言うか、私たちがこの星に来るとき乗った、えーっと、転移装置。それにそっくりなんだけど、あそこまで大きくなかった気が……」
焦りつつも私は見て思ったことを率直に彼に伝えた。
確信はないけれど、色、大きさ、姿形は乗り込む前に見たそれとよく似ているんだ。
「大きすぎるだろ……。」
それがどうしてこの空に浮き、のっそりと動いているのか……
大輪の花のような巨大な銀の構造物。やっぱりあれってトリアンドルスだよね……?
私が乗ってきた時は蕾みたいな形だったけれど──
「ん?何か光った?」
「ギュイイイイイイイイイイィンッ」
「シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「うわぁあああ!?」
光線……!?
私たちの方向目掛け……
「ちょっ、本当に!?」
一瞬、それから出た光によって辺り一面が照らされた。
そのまま白と黒が絡み合う広範囲の光線は私たちの頭上を通りすぎて、ずっと向こうへ、地を裂くように照らし続けていく。
その影響からか、地面の形が崩れ……どろどろと溶けていく……。
あの建物も……ゆっくり歪み始めた。
「ひぃっ!」
「こっちへ!安全なところを……」
「うん。」
私の腕は掴まれて飲み込まれた足に構わず懸命に引っ張ってくれた。
「ぅぐっ……あそこへ行くぞ!大丈夫だ!」
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