第16話 地球観測取扱規則
突然、存在すら知らない彼方の星からやって来て、あなたの星の時間を圧延し、調査に来ました、これは授業なんです。なんて言われて、
彼の心にどう響いたのだろうか。
私だったら多分チンプンカンプンで、場の空気を乱さぬよう、わかったふりをするだろう。
「君たちはどうやって僕らの言語を習得したの?それも何気なしに流暢に喋っているけれど。」
……ん?確かに。なんで?
何故彼は私たちの言葉を話し、言動を理解しているのか?
「いや、話してはいないけど。」
「えぇっと、あれなんだっけ……乗ってきたマシンのなんとかってシステム。」
「あー、そうそう。β(ベータ)?だか、δ(デルタ)?だか……あれに搭載されてるって、ここに来る前に先生が話してたよね、すっかり忘れたけど……」
あぁれ、そういえばそうだった……っけ?
「覚えにくい名前……」
「ともかく地球のどこかにある、マシンのシステムが私たちの発した言葉を電波塔なんかと似た役割を果たして私たち一人一人と送受信する。その見えないシグナルのやりとりで私が自分の言語で話しても、あなたの脳では音声とか口の動きとかが、あなたの違和感がなくなるように今この瞬間も上書きされている。そんな感じで私たちがあなたの言語で話しているように聞こえるんだ」
「はぁっ!なるほど?」
彼は驚く。私も今知った。私もどこか過去の正しいタイミングでこのリアクションをすべきだったのかもしれない。授業を話半分で聞き流しているとこうやってついていけなくなる。反省。ちゃんと説明は聞きましょう。
「そのマシンは言語の他にも範囲内の重力や気温や天気などの空間への作用、生命体それぞれに適した睡眠や食事や排泄などの生命活動への作用の調節をしているの。今こうやってこの星で私たちが不自由なく活動できているのもそれのおかげなわけ。」
すっごいなそれ。一個で全部やってのけてんのか。
「ありがとう……覚えにくいマシン……」
「……すげぇ。」
すごいよね。私もただたゆませていた脳細胞の姿勢を正さないと。
「じゃあ、いつまでこの世界の時間は止まっているの?」
「確か五十年間だったよね」
「うん。五秒間を五十年に引き伸ばすって、先生がこの前の授業で言ってた。」
それは行く前に話をした覚えがある。覚えてるじゃん、偉いじゃん私。
50年後かぁ──
「え」
あ。
「えぇと、じゃあ僕を止まっている、いや引き伸ばされていない元の世界に戻すことは……?この外にいる僕以外の人間と同じようにさ」
「その件については……この事を本部へ説明すればマシンのデータからあなたが効かなかった原因がわかるかもしれない……としか言えない。私たちは見学の最中で、今の段階ではまだ本部とのやり取りが出来ないから。」
あぁ!そういえば!そうじゃん!
彼は被害者で今も尚ピンチなんだよ。
私は彼と友人を引き合わせることが目的で、そこにリソースを割いていた。
つまらない世界から脱け出せた弾みで気遣いは疎かになっていたのか。
自分勝手でした。
私の修正すべき点はこうやって見つかるのだけれど、見落としてばかりでなかなか治る気配は無い。
「……無力。」
「でも、原因が分かればこの計画のエラーを解消し、あなたを元通りの世界の一員にできるかもしれない。……きっと」
そ、そうだよ。
本来なら会えていないのだから……元通りにしてあげなくちゃ。
「五十年間におよぶ長期間の調査だけれど、言った通り私たちはあくまでも授業の一環で来ている学生だから、他の研究者さんと違ってこの星に滞在できる期間は……その内十日間なの。」
十日のうちに課題を仕上げて、どうにかして彼を元通りの世界へ戻さないと……なのか。
「うん、うん。」
「もちろん、あなたを見捨てるつもりはない。ごめんだけど、今は私たちだけだから、あなたをどうすることもできない。」
皆が彼を支えようとしてくれている……。
協力してあげると言ってくれた。
私も出来ることを全力でやりたい。
「だからこの十日の間で、なぜあなたが効かなかったのかを……」
──突き止めて世界を元通りにしないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます