第7話 それは灰色だった

私の言動に反応を示し、その地球人の瞳が少し動いた……気がした。


「いやぁー、ぁぁぁ……はい認識しています……。多分。」


!?⁉!?⁉


へ?あれ?会話できてる?

嘘……でしょ……


「えぇえ!?……へ?……ちょっと!聞いてないよ!」

地球に来て一番の驚きを更新した私の発言。

あ?あれ?あれれ?どういうこと?


彼がまさか私の発言を認識して返事をしてくれるなんて思ってはいなかった。


予想外どころかそれ以上の範囲外な、そんな返答に私は困惑した。

あれ?時間圧延、効いていないの?

効果切れてる?

いやでも他が明らかに静かだし、そういう能力者ですか?

何なになに?

ドッキリ?

私騙された?

え?


これはどういうことでしょうか。とりあえず、本部の先生たちに伝えなきゃ──

冷や汗が額から首すじへ伝う。隠しきれないほどの動揺。

なんだこれ?なんだ?なんだ?


何と伝えればいいか、たじろぎつつも端末を手に取る私。

通話するためにずっと画面を押し続けたけれど……


画面に大きく接続不能マーク。

こりゃ困ーる。


繋が……らない……や。

こんなときに限って。

なーんでぇ!


まぁ、確かに。ここラノハクトじゃないし。地球じゃないか。

落ち着いたら、当たり前じゃん……


あっ、そういえば何かあったら端末から専用のサポートセンターに気軽に連絡をと、直前のアナウンスで言っていたので、持ったままの端末で録音してその通りこのことを報告しよう──


と、急に腕を掴まれる。あっ。


「これってどういう状況ですか!?……もしかして僕、殺されるんですかぁ!?」


へ?へ?私も困っているんですけれど。待って、待って。

私を押し付けた彼の表情はとても怯えていた。

うってかわってすごく力強く熱い感情がひしひしと私の額角に注ぎ込まれる。


「え、えぇーっと、それはわからないです、これは……おそらく……謂わば想定外な出来事というか。なんというか。」

「はぁ、そうなのか」

私はこちらへ来て数分、地球人はまだ彼しか目撃していない。始まったばかりのこの時点で無責任な断言はできなかった。


唐突で怖かったが、彼も同じかそれ以上に怖がっているのだろう。


「すいません、突然すぎて慌ててしまって……」


おぉ、落ち着いてくれたようだ。

彼の目を見ても、感情を読み取っても、多分悪い人ではない。


この人ならもしかしたら──


私は彼をそれ以上怖がらせたくないので今ここでの報告は控えることにした。

「まぁ、このことをあのサポートセンターに書き込んでもどうせ「よくわかりません」って返されるんでしょ。はぁ。」


私は敵ではない。害は無い。この身一つの「か弱き者」だ。

今思っていることをありのまま伝えた。伝わるとは思わないが、彼を少しでも安心させたい。


私はそんな彼を灰色くんと呼ぶことにした。心の中で。彼から受け取ったはじめての感情が灰色だったから。

すごく単純な理由で。


本部の先生たちに連絡……も出来そうにないか。


「うーん、あの人たちも忙しいだろうし……そもそも繋がるか分からないし、ここじゃあ何も出来ない。うわぁ、どうしようね……」


とまぁ、それでも……自分より困惑している人がいると冷静になれる。


言葉に詰まっている地球人と呆れる程綺麗な空。

すげぇや。夢じゃないのかこれ。

ただ見蕩れたまま時間に任せてこの状況から──


……んー、それだとなんだか心が居心地悪い。


なんせ今の私は沈黙な空間は好きじゃない。何かに刺激を与えていたい。

だから、心許ないフェンスに腰かけて俯いている灰色くんに率直に投げ掛ける。

「あ、そういえば、なんで殺されると思ったの?この私がキミを殺すとでも?」


そんな彼は「そんな気がしたから。」

なーんて言い、苦笑いと共に返ってきた。


そんなぁ、殺さないよ!?

ひどいなぁ。

地球人ってそんなに恐怖心に囚われているのか?

灰色くんだけ??


私は少しずつこの場の手掛かりを得ようとしている。


「あぁそう。はぁ、次はキミのことを友達に伝えてみる。キミが殺されることは多分ないと思うから安心せい。元気出しなよ。」

まぁ、これで安心しただろう。大丈夫。こう見えて私は気配りもできるのだ。

任せてくれ。

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