みんなで行こう、国引こめっとらんど
錆田灰皿
みんなで行こう、国引こめっとらんど
ラジオの音『今日未明、Y県K市の山中で車がガードレールを突き破り、転落している所を通りがかった地元警察によって発見されました。関係者によりますと、運転席にはこの車の持ち主と見られる男性の白骨遺体が発見され、車は転落してから10年程度は経過しているものと見られており、警察は身元の確認を急いでいます。』
ガガガガッと車体が小刻みに揺れ始めると私は足に力を入れ止まる。また前が動き出すと惰性を使って前に進む。気にしすぎるタイプの人間としてはこういった些細な自分の行動に些細なことを思い出すことが多い。例えば免許をとる時に言われた、「アクセルを使って進むことに慣れないと車によっては…」だとか何とか。自分でも正確に覚えていないくせして言われた事実だけを執拗に覚えていて、思い返してはいつも逡巡する。「関係ないだろう。車が壊れるだとか、正しい運転の仕方じゃないだとか、実際運転出来てんだから良いだろ。」そうやって自分しかいない車の中で一人ボヤく。そうでもしないと落ち着かないんだからしょうがない。ガガガガッ車体が揺れる。少し進む。そして、止まる。そういえばあの時の言ったこと真に受けちゃいないだろうな、あいつに限って気に病んだりはしないだろうが…とかいうことを考えていると徐々に渋滞は解消され始め、少しづつ進み始めた。霧がかった、いつからできたのか分からない古い国道の上で緩い速度で走り始める。昼過ぎの寂れた国道で渋滞だなんてよくあることなのか。それともこの霧のせいか。進み始めてから数分するといつからそこにあるのかも全く分からない、錆び付いていて草木に隠れた看板が見えてきた。「国引こめっとらんど…?昔はこんなとこに遊園地があったのか」看板には50m先右折と書いてあった。流石にもうやってないだろうがせっかく通りがかったのでよってみることにした。とろとろと看板に書かれた道を探しながら進んでいると右側に錆び付いた看板と割れたアスファルトの道が見えてきた。間違いないここだ。私は霧のせいで見えづらい対向車線を気にしながら曲がり、ガタついたアスファルトの上を進んでいく。しばらく進むと霧の奥に大きな門と大きな看板、割れて片腕の無くなったメインキャラクターであろう星型のコミカルなキャラクターがいた。車を降りて近くに行くとキャラクターのいる台座に薄らと名前が書かれていた。こめっと君というらしい。腕がないことといい、雰囲気といい全く気味が悪い。こめっと君の元を後にして門の前に立つと、私は躊躇いなく中へと入っていった。こんな言い方をすると馬鹿らしいが、呼ばれているような気がして足を止められなかった。門を通り抜けた途端、霧がかった廃遊園地の奥から『星降る王国~🎶みんな大好き~こめっと、こめっと、こめっとらんど~🎶』と軽快な音楽が聴こえた。
ラジオの音『地元の方によりますと、20年前に新しくトンネルが開通してからこの道を通ることはまず無くなった。あっちの道は霧がかかることが多くて危ないからみんな通ろうとも思わない。今回の事故も霧のせいなんじゃないか、ということです。次です…』「な?不思議じゃねぇか?誰も通りたがらない山道をわざわざ通り、その上一人で転落死だなんて。しかもこの人、財布にもお金はちゃんと入ってたらしいし、後部座席にはプレゼントらしき箱があったらしいんだ。」相変わらずテンションの高いことにうんざりしながら、「くだらん。じゃあ何だ、その死んだ男性は誘われるようにここにやってきて、なんでここにいるのかとかそんなことも分からずにここで転落したってのか?というか、なんでそんな情報持っているんだよ。」すると鼻で笑いながら、「最近のネット社会を舐めてんじゃないのか?情報なんて調べればゴロゴロ出てくる。このラジオの音声だってすぐに出てきた。気になったら俺はとめられねぇんだ。」「だから免許も車も持ってる俺をよんだのかよ。俺をなんだと思ってんだ…」俺のことを久しぶりに呼んだ理由を理解した。しばらく進むと深い霧の奥にテールランプの赤い灯りが見えたのでゆっくりと車を止める。「おいおい渋滞か?俺の好奇心を邪魔すんじゃないよ全く!」そう横で叫ばれながら俺は震えが止まらなかった。「おい、お前おかしいと思わないのか…?渋滞なんて…さっきのラジオで言ってたろ、滅多に通るやつはいないって。それにこの霧…」「たまたま俺らと考えてることがおなじ奴らがいたんだろ」「楽観的過ぎないかお前…」「って、お?あれみろよ、あの看板。」「「国引こめっとらんど…」」
みんなで行こう、国引こめっとらんど 錆田灰皿 @Sabita_Haizara
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