ひろしのご主人様は白髪の美青年騎士で、その従者と共に異国の地を旅していると美女に会ったり下着をゲットしたり魔獣たちに襲われたりして、マッチョと友になり、驚愕の事実が判明する冒険・略して『ひろしの冒険』

淀川 大

第1話 大草原の美女

 青くんだ空に静かな雲が流れていた。東から流れてくる暖かな風が、周囲に広がる草原の若草と美しい刺繍が施された衣のすそと彼女の金糸きんしのような髪を静かに揺らしている。


 その若い女は広大な草原の中に独りで立ち、天に向けて両手を広げた。体いっぱいに光を受けながら、この素晴らしい自然を恵んでくれた神に祈りをささげる。重ねた両手を額に当てた彼女は、バスケットを提げて歩き始めた。


 森の手前まで来ると、彼女は息を飲んで立ち止まった。バスケットの蓋を開け、そっと屈む。その時だった。森の中にギラリと光る物が動いた。彼女は腰を抜かしてその場に座り込む。森の中の暗闇からうめき声とも叫び声とも分からない声が聞こえてきたかと思うと、草をかき分けて小人たちが突進してきた。緑の肌の鬼のように恐ろしい顔に鋭い牙、手には斧や棍棒こんぼうを握っている。ゴブリンの群れだ。


 その醜い魔物たちは、よだれを垂らしながら彼女に襲い掛かった。すると、閃光と風を切る音がして、同時に数体のゴブリンたちが空に飛ばされた。深く切られた体から黄緑色の血を吹き出しながら、森の奥へと飛ばされていく。それを見た他のゴブリンたちは悲鳴をあげて退散した。


 座り込んだまま茫然ぼうぜんとしている彼女の横でよろいが動く音と剣がさやに戻る音がした。顔を向けると、そこには銀の鎧に身を包んだ若い男が立っていた。青い瞳に白い肌、肩の下まで垂れた長髪は真っ白だった。

 彼は女に手を差し伸べて言う。


「お怪我はございませんか」


 ハッと我に返った彼女は、彼の手を取って立ち上がった。


「大丈夫です。ありがとうございました」


 彼女は深く腰を折って一礼した。額に手の甲を当てて微笑む。キョトンとしている青年の横に中年の男が口髭を動かしながら歩いてきた。


「この国の感謝の示し方ですよ。作法なのです。ところ変われば、ですな」


 口髭の男はニヤリと笑ってから、麻の衣のフードを被った。彼の横を白い犬が駆け抜けて、彼女に飛び掛かろうとする。


「ひろし!」


「キャウンッ」


 髭の男が犬を蹴った。犬は草むらの中に飛ばされ、そのまま斜面を転がり落ちていく。その先の沼から水を叩く音がした。


「まったく、あの馬鹿犬が。若い女を見るとすぐに突進しやがる」


 髭の男は腰の帯からヤギの革で作った水筒を外すと、それを口元に運び傾けた。強い酒の臭いが周囲に漂う。


 鎧姿の白髪の青年は青いマントを身にまとうと、彼女に言った。


「この辺りは魔物が多い。女性が独りで歩くのは危険ですよ」


「あの、失礼ですが、貴方あなた様は……」


「私はデュラハン・アルコン・ドレイク。この者は私の従者でヨッド・カーウァ」


 腰の帯に水筒を戻していた髭の男は軽く会釈をした。


「さっきの犬は……」


「ひろしです。忘れて下さい。勝手に我々の旅についてきているだけですから」


 一度沼の方に心配そうな顔を向けた彼女は、青年の方を向きなおし、再び尋ねた。


「旅の途中なのですか。どちらから」


「アルラウネ公国から来ました」


「え?」


 驚いた顔で、女は半歩後退した。

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