第2話 召喚と少女たちと眼鏡1

「ねえ、起きて! ねえってば!」

「うわ、本当に人が出てきた……ねえ花音、これ何?手品?」

「りえちー、だから言ってるじゃん、召喚だよ、異世界から能力者を召喚したの!」

「いやなんか血みどろだし絶対やばいやつじゃん……?」


 そんな声に目を開ける。謎の揺れはすでに終わっており、ぼやけた視界だけが残る。今度は二人の人間が覗き込むようにしてオレを見ていた。どうやら男ではなく女性らしい。本がたくさん置いてある棚に囲まれたテーブルの上にオレは寝かされていた。


「あ、起きた! ねえ、私の言葉わかる? お名前は? あーゆーすぴーくじゃぱにーず?」

「いやそもそもジャパンを知らないだろ、異世界なんでしょ?設定は」

「億が一だよりえちー!言語設定をもしかしたら英語にしてしまったかも?だよ!」

「お前英語1だろ致命的じゃねーか」


 あーゆー…何かの呪文だろうか。どうやらオレが喋れるか確認したいのと、名前を訪ねているらしい。黒い長い髪に赤いピン止めをつけた少女の問いに、オレは答えることにした。


「お前が言った言葉はわかる。俺の名前はモルドレッド……というらしい」


「喋った!名乗った!声かっこいい!ねえ、りえちー!この花音様のこと信用した?」

「あー……うん、わかった、信用した。今回ばかりは」


 りえちーと呼ばれた黒髪のショートカットの少女はオレをまっすぐに射貫くように見つめる。品定めでもしているか、その視線はじろじろとこちらを見た。


「スーツに赤髪……目も赤いな……本当に異世界……まじかー……コスプレの線も捨てがたいけどな……まじか……」


「モルドレッドさん!! 私の名前は神代 花音(カミシロ カノン)!ちゃんと覚えておいてね!」


 その言葉に、ペンを持った。忘れたくないことはメモをしなければ。きっとこれからも必要になる情報だ。カミシロ カノン。おそらくこの状況の主導者。とても快活な少女のようだ。すこしこちらが気圧されるくらいには。


「何書いてるの?私の名前? うわー、ありがとう!!覚えようとしてくれているんだね!! ねえねえ君はどういう世界から来たの? 元の世界では何をしてたの? 教えて教えてー!!」


 カノンの問い詰め攻撃に少し物おじしていると、急に顔をつかまれじっと目を見据えられた。それから右目を手で塞ぐように隠された。


「ねえねえ、今普通に私の目見てるよね?」

「ああ」

「モルドレッドさん目悪いでしょ!!眼振してる!眼鏡屋さん行こうよ眼鏡屋さん!私がおごるから!!」


 メガネヤサン。聞きなれない響きに呆然としていると、「目が悪いのは大変だな、行ってきな行ってきな、お留守番しておくから」とりえちーと呼ばれた少女もうんうんと頷いている。どうやらこの場をあきらめたようにも見えるその頷きと、目の前の少女――カノンに引きずられるようにして机から降り、その部屋を出た。



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