第425話『世界イチ恐いラブコール』


 あの、本人の知らないうちにチャンネル登録者数が日本1位になってたんですけど……!?

 聞けば、どうやら海外でのバズりが大きかったらしい。


 まず、俺の行方不明に対して『イロハを応援しよう!』みたいなムーブメントが起こったのだと。

 それで大勢がまるで募金活動でもするかのようにチャンネルを登録した。


 そこへ、先日の国際ライブ。

 今回の”わかりやすく頭のおかしいお祭”に乗っかるように大勢が登録を行い――。


>>¥50,000 このときのためにスパチャ投げるのガマンしてた!

>>$500.00 おかげでガチャ配信じゃあ人数のわりに金額少なかったよな!(米)

>>₩500,000 ここからは先は制限なしじゃぁあああ!!!!(韓)


「!?!?!?」


 いやいや、さっきまでのガチャの時点で、すでに過去最高に迫ってたと思うんですが!?

 それからもスパチャ総額は増え続け――!?


   *  *  *


 『奇跡の生還! 3ヶ月ぶりの復帰配信! ……から唐突にガチャを回しはじめる幼女』。

 『幼女がスパチャ芸中にチャンネル登録者数”第1位”を獲得する瞬間』。


 みたいなタイトルの動画が、各国の切り抜き氏たちの手により大量生成されていた。

 俺はモニターの前で頭を抱えた。


「な、なんでこんなことに……」


 MyTubeを開いて推しの配信を観ようとするたびに、自分の切り抜きがサジェストで表示されるのだ。

 何度非表示にしても、またべつの人が作った動画が浮上してきてしまう。


 いや、べつにそれだけならよかった。

 スルーすれば済む話……だが。


《イロハ、オマエやらかしたな……》


《本当にちがうの、おーぐ! 聞いて、わたしそんなつもりじゃなかったのぉ~っ!》


 なにせ、国際ライブで世界中の注目が集まっている中やったことがコレだ。

 あのライブの関係者たちも、みんな悪い意味で度肝を抜かれたらしい。


 母親から叱られる程度ではまったく済まなかった。

 俺は関係各所から、何十件もの非常にありがたいお言葉を頂戴するハメになった。


 まぁ、一緒にお祝いの言葉ももらったけれど。

 もう2度と話すことはないだろうと思っていた大統領の部下――スーツの男性からも連絡が来たほどだ。


 曰く、大統領はこう言っていたとのこと……。



『――今すぐあなたに会いたくなった』



「ひぃいいい~~~~っ!?」


 なんだそれ恐すぎる!? 間違いなく”死刑宣告ラブコール”だった。

 俺はガクブルと震えながらあんぐおーぐに縋りつく。


《わたしはなにも悪くないよねぇ? これは事故だよねぇ……?》


《いや、100パーセントオマエが悪いだろ》


《……そ、それを言うなら、どうしておーぐはわたしを止めてくれなかったの~!?》


《責任転嫁するな。というか、ワタシ家にいなかったし。こっちにいられる日数が残り少ないから、今のうちに済ましとかなきゃいけない収録があったんだ。仕方ないだろ》


《そ、そうだけどぉ~っ!》


《自業自得だ。甘んじて受け入れろ。ちなみにうちのママ、怒ったらめっちゃ恐いぞー》


《あの人、べつに怒ってなくても恐いじゃん!?》


《って、イロハが言ってたって伝えておくな》


《わーっ!? 今のナシーっ!》


 とまぁそんなこんながありつつ、あっという間に日々は過ぎていき……。

 いよいよアメリカでの生活も終わりが近づいていた。


 毎日、アドベンドカレンダーを開き、あんぐおーぐにちょっとしたプレゼントをしたり。

 逆に彼女から赤ちゃんグッズをプレゼントされたり。


 そして、その赤ちゃんグッズでごにょごにょ……い、いや!?

 なにもやましいことなんてしないけどね!?


 ……ごほんっ。

 ともかく、そんなこんなで……。




 ――試験当日。


《はじめ!》


 ハイスクールでの定期テストがはじまった。

 その結果は……。


   *  *  *


《あちゃー、負けちゃったかー》


《ふんっ、当然だ。ボクはいずれ言語学の分野においてもお前を超える男だからな。こんなところで……しかもお前にブランクのある学校のテストくらいで負けていられない》


 カフェテリアでテストの結果を見せ合う。

 試験の結果は俺の負けだった。


 といっても、むしろ点数は悪くなかった。

 だが、それ以上にシテンノーが”完璧”だったのだ。


 もう2度と学業では勝てない。

 そんな気がした。


《まぁ、VTuberの知識ならわたしのほうが上だけどねっ!》


《そこはなにも張り合ってないが!?》


《でも、ビックリした》


 言いながら、俺はいつもとなりに座っていた女子へと視線を向けた。

 彼女は勉強がニガテだったはず。

 しかし、今回のテストの成績は上位に食い込むほどだった。


《いつの間にこんなに成績を伸ばしたの?》


《ふふふっ、すごいでしょ! これでも毎日、コイツに教えてもらって勉強してたからねっ!》


《付きまとって、の間違いだろ》


 シテンノーという学年トップに教えてもらっていたり、天才集団である研究所で仕事をしているうちにだんだんと彼女のレベルも引き上げられていたのだろう。

 あとはなにより……。



《――ふふんっ。まぁ、これも愛のなせるわざ……だよっ!》



 女子はそうはにかみながら言った。

 なるほど、つまり……そういうことか!


《そんなにも言語学が好きになっていたなんて!》


《なー、まさかコイツがなー! 意外だよなー!》


 俺とシテンノーは揃って唸る。

 いやー、まさしく好きこそものの上手なれ、だな!


《……はぁ~~~~、この朴念仁どもは》


《《……?》》


 女子の言葉に俺たちは首を傾げた。

 なにか間違えたことを言っただろうか?


《……でも、諦めないから》


 と、彼女がなにやら決意の言葉を口にしたのと同時だった。

 俺の背中に……。


《――オイ》


 と声がかかった。

 なんだ、ずいぶんとぶっきらぼうだな……と思いながら振り返ると。



《――うげぇっ!? あああ、あのときの不良!?》



 そこには、いつだったか俺のロッカーをめちゃくちゃにしてくれた男子生徒が立っていた――。

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