第331話『誤解もまた別解である』

 発音での言葉遊びってのは世の中に多い。

 今、挙げられた以外にも……。


<ワタシあれがかわいくて好きです。”カンサイ弁”の「ちゃうちゃう」!>


<あはは、あれねー>


>>なになに、どんなの?(宇)

>>関西弁は日本語にある方言の一種だよね?(宇)

>>イロハちゃん言ってみて(宇)


<いいよ。わかりにくいと思うから、言うだけじゃなく文章も書いておくね>


 テキストを打ち込み、配信画面上に表示させる。

 俺はそれを読み上げた。


 Aさん「ちゃうちゃうちゃう?」

 Bさん「ちゃうちゃう? ちゃうちゃうちゃうんちゃう?」

 Cさん「ちゃうちゃう、ちゃうちゃうちゃう」


>>なんだこれw 全然なんていってるかわからんwww(宇)

>>日本人だけど、オレもイロハちゃんがかわいいことしかわからない

>>↑同じくwww


<えっとねー、この文章を訳すと……>


 Aさん「チャウチャウかな?」

 Bさん「チャウチャウ? チャウチャウではないんじゃない?」

 Cさん「ちがうちがう、チャウチャウではないよ」


<と、Aさんの言葉をほかのふたりが訂正しているという文章になるね>


>>んなもん読めるかwww(宇)

>>↑安心しろ、日本人でもわからないから

>>言葉遊びなら、英語にもおもしろいのがあるよ(米)


<英語で有名なのだと、バッファローのやつとかかな?>


<どんなのですか? ワタシ知らないので、聞きたいです>


<”Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.”>


<???>


>>バッファローバッファロー……なんて???(宇)

>>全部で何回「バッファロー」言ったのかもわからんwww(宇)

>>解説してくれ(宇)


<”バッファロー市のバイソン(A)がイジメているバッファロー市のバイソン(B)は、バッファロー市のバイソン(C)をイジメている”ってニュアンスかな>


<えーっとつまり地名と動物、それから動詞としてそれぞれ「バッファロー」という単語が存在する、ということでしょうか? そんなの初見でわかるわけがありません!>


>>いや、今の解説聞くだけでパッと理解したイリーシャもかなりすごい気が(宇)

>>オレ解説聞いてもよくわかってないわ(宇)

>>中国語にもそんなんなかったっけ? 早口言葉みたいなやつ


<おわっ、次は中国語? 多分、マーマーのやつだよね。それは日本人にはわかりづらいだけで発音がちがうから、同音異義語とはちょっとちがうんだけど>


<せっかくなので、それも聞いてみていいですか?>


<えーっと、ごほん。「マーマーチーマー。マーマン、マーマーマーマー」。これは”お母さんは馬に乗る。馬が遅いので、お母さんが馬をののしる”って意味で……>


>>イロハちゃんがママ、ママって言ってるのかわいいw(宇)

>>もっと言って!(宇)

>>やはり、イロハちゃんは幼女(宇)


<うぉいっ! 今、全然そんな話はしてなかったでしょーが!?>


<イロハサマ、一度ワタシのことをママと呼んでみたり……>


<しーまーせーんー! すでにリアルママとイラストレーターのママでふたりもいるし、もう十分>


 これ以上増えられても困る。

 なんなら、前世の親までいるわけで……すでに多すぎる!


>>ん? 待てよ? よく考えるとイロハちゃんのキャラデザって(宇)

>>現在のイラストレーターはべつだけど、初期の立ち絵はアネゴが書いたんだっけ?(宇)

>>ということは……アネゴは姉じゃなくて、じつは母だった?(宇)


<ぎゃーっ!? やめて!? ヘンな想像しちゃったでしょ!? あー姉ぇをママ呼ばわりなんて……こう、ゾワゾワする! キモチワルイ! 絶対にイヤ!>


>>そこまで拒否せんでもwww(宇)

>>全否定イロハちゃんw(宇)

>>いつでも好きにママって呼んでいいからね。ちゅっ


<って、ぎゃぁあああ~!? あー姉ぇ配信見てるし!?>


 しかも、バッチリ伝わっちゃってる!?

 こういうときMyTubeの自動翻訳と字幕機能が恨めしい!


<むむっ、すでにママ役はほかにいましたか。であれば仕方ありません。そちらは譲るとしましょう。ワタシは彼女と恋人と婚約者と妻の座だけで満足しておくとします>


<それなんにも譲ってなくない!? というか勝手に、わたしに娶られようとしないで!?>


<……イロハサマはワタシじゃイヤ、ですか?>


<っ!? い、イヤ……では、ないけど……>


<えっ!? じゃ、じゃあ! ワタシのこと好きってことですか!?>


<そ、そりゃあイリェーナちゃんはわたしの推しだし……好き、だよ?>


<そうではなく~! いや、それもすっごくうれしいんですが!?>


>>あっ、イロハちゃん逃げたな(宇)

>>あとひと押しでいけそうな気もするんだけどなぁ(宇)

>>最近のイロハちゃんデレ期きてるもんな(宇)


<い、イロハサマっ! 恋愛対象としてはワタシのこと……ど、どうですか!?>


<!?!?!?>


>>おぉっ!? あのイリーシャが攻めた!?(宇)

>>さっき「ひよった」って言われたのが効いたかな?(宇)

>>ワンチャンあるぞこれ!?(宇)


 な、なんだこの流れは!?

 もしかして俺、この場で返事しないといけないのか!?


<わ、わたしは……>


<はいっ!>



<――そ、そういうのは直接、じゃないと>



 俺がひねり出した答えは先送りだった。

 そんな返答にイリェーナはがっかりするかと思ったのだが……。


<直接……そ、そうですね。わかりました>


 返ってきたのは、なぜか決意に満ちたような声だった。

 ……んんん? あ、あれっ!?


>>そうだよね。イロハちゃんだって女の子だから告白は会って言ってほしいよね(宇)

>>近々、オフコラボでASMRするって言ってたっけ(宇)

>>つまり、そのときが……(宇)


<!?!?!?>


 な、なんかべつの意味に受け取られてるぅー!?

 ちがっ、それは誤解で……!?


<イロハサマ>


<ひゃいっ!?>


<待っていてください>


<……は、はい>


 なんか気迫に押されて頷いちゃったし!?

 俺は心底から思った。言葉って本当に難しい……。

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