第329話『日本語のここが難しい!』


<日本語は本当に”特殊”だと思います! ワタシが感じた難しいところ……あとはおもしろいところや、変だと感じたところも紹介していきたいと思います!>


<せっかくだから、英語とのちがいも話していこうかな。さっきの流れで「英語についても知りたい」ってコメントが来てるし>


<ぜひぜひ! ワタシも知りたいです!>


 しかし、この語学配信はなかなかボリューミーな内容になりそうだ。

 いや、それも当然か。なんたってイリェーナの人生の3年分だもんな。


<ではまずは語順。ウクライナ語や英語はSVO型だけど、日本語はSOV型ですよね>


<定番だね>


>>はじめて日本語を勉強したとき、戸惑ったよ(宇)

>>↑同じく。しかも、倒置法とかで語順がコロコロ変わるしな(米)

>>↑さらにいえば主語の省略とかめっちゃ多いし(米)


<ですよねー! と、言いたいのですが……じつは語順が変わったり、主語が省略されたりはウクライナ語でもわりとあったりします>


<そういえば>


<ただ、主語……一人称の多さは本当に困りますね。「わたし」「あたし」「ぼく」「俺」って最初、なにがなんだか。どうして、あんなにも種類が多いのですか?>


<日本語の人称代名詞は”関係性”を表すから、かな? あくまで一説だけど>


<関係性?>


<たとえば、あー姉ぇってわたしとおしゃべりするときとか、よく自分のことを「お姉ちゃん」って言ったりするんだけど。それが原因で増えていった、みたいな>


<なるほど! あっ、それでいくと一人称だけじゃなくて二人称も多いですよね? 「あなた」とか「キミ」とか「お前」とか「キサマ」とか>


<これもさっきと同じ理由だっていわれてるね。相手の立場によって使い分けるために増えた、って。あと、もしかしたら”敬語のインフレ”も影響してるかも>


<敬語のインフレ?>


<そう。じつは「御前おまえ」とか「貴様きさま」とか、もともとは敬語だったんだよね。今は罵倒に近いけど>


<そうだったのですか!?>


<うん。けれど、皮肉で使われたり、もっと丁寧な言葉が現れたりするうちに……時代を経るうちにだんだんと言葉の”価値”が下がっていって、今に至るって感じ>


<なるほど。うーん……丁寧なのは悪いことではありませんが、ワタシは日本のミナサンはもっと気軽にお話ししてもいいと思います!>


<あははっ。そうだね>


<”ソンケイ語”とか”テイネイ語”とか”ケンジョウ語”とか、言葉遣いが難しくて混乱しますし。ワタシも最初、まったくわからなくて>


<あれ? もしかして、つねに丁寧語でしゃべってるのって>


<あ、いえ! それはただのクセです!>


>>じゃあ、イリーシャって敬語とタメ口を使い分けられるのか、すげぇ(宇)

>>さすが日本語マスター(宇)

>>オレはまだそのレベルには達してない……イリーシャの配信見て勉強するよ!(宇)


<そっかー。じゃあイリェーナちゃん、せっかくだしわたしのこと呼び捨てにしてみる?>


<!?!?!? いいい、いえ! そんな恐れ多い!?>


<ほら、お試しだから。「イロハ」って>


<い、イロハ……>


<おっ?>


<……サマ>


<ダメだったかー>


>>なぜそこでひよったー!?(宇)

>>イリーシャ、大チャンスだったのにー!?(宇)

>>イロハちゃんからのお誘いなんてレアなのに!(宇)


<そ、そんなこと言われてもぉー!? ワタシの中でイロハサマという存在が大きすぎてぇー!>


 かつてタメ口を提案したときも断られたもんなー。

 俺にもファンとしてのラインがあるように、イリェーナにも俺にはわからない基準があるのだろう。


<けど、つねに丁寧語ならだれに対しても失礼になることがないし、プライベートでもビジネスでも使えるし、いいんじゃない? まぁ「さま」づけはやりすぎだけど>


>>丁寧語はわかったんだけど、敬称とか人称代名詞は結局どれを使ったらいいの?(宇)

>>↑敬称は「~さん」、人称代名詞は「わたし」「あなた」固定でいいよ(宇)

>>↑「わたし」って女性が使う一人称じゃないの?(宇)


<たしかにプレイベートな場面では女性が「わたし」を、男性が「俺」を使うことが多いね。だけど、男性が使っててもべつにおかしくないよ>


<細かな表現となるとべつですが。会話するにはそれで十分だと思います>


>>そのあたりは仕方ないね(宇)

>>敬語とか敬称とか人称とか、日本語は繊細で難しいね(宇)

>>たしか、日本のアニメやマンガを海外翻訳する際も、頭を悩ませている問題なんだっけ?(宇)


<ですね。あっ、マンガで思い出しました。日本語はオノマトペもすごく多いですよね。とくに”ギオン語”や”ギセイ語”以外のオノマトペは世界的に見ても珍しいと思います>


<そのせいか種類も細分されてるね。擬音語・擬声語・擬態語……それから、擬容語・擬情語>


<ギヨウ語って「フラフラ」とかでしたっけ?>


<そうそう。擬情語は「ワクワク」とか>


>>逆に英語なんかはほぼオノマトペないよな(宇)

>>コミックとかでも「SMAAAASSH」とか「COOOOL」とかそのまんま言ってるイメージ(宇)

>>「BANG」とか「BOOM」とか、まったくないわけではないけどね(米)


<ワタシはいつもイロハサマに胸がドキドキ、ハートはメロメロです!>


<はいはい>


<あと、ほかには……>


 どうやら、まだまだ日本語のエピソードは尽きなさそうだ――。

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