第321話『おうち3Dのススメ』
「わ~っ、はじまりました! ひさしぶりのオフコラボ配信! ”みんな元気ぃ〜? みんなのお姉ちゃんだヨっ☆”
「”わたしの言葉よあなたに届け”、翻訳少女イロハです。……はぁ~」
《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです!》
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>イロハロー!
>>やぁ、おーぐ!(米)
「ちなみに今日はみんなにイロハちゃんのかわいい姿を届けてあげようと思って、”
>>おぉ~! おうち3Dだ!
>>あー姉ぇ、相変わらずよく動くなぁw
>>おーぐの動きかわいいwww
あー姉ぇとあんぐおーぐが「わー」とジャンプしたり手を振ったりするのに合わせて、配信画面上に映るみんなの3Dモデルもわちゃわちゃと動き回っていた。
その挙動を実現しているのは後頭部、腰、両手首、両足首に装着した小さくて丸っこいセンサー。
それこそがmocobi。モーションキャプチャシステムの一種だ。
軽量かつ、手軽に自宅や出先で全身トラッキングができる便利なシロモノである。
「おうちでこんなにも簡単に全身動かせるようになっただなんて、時代だ姉ぇ~」
今までのものは重く、俺の場合とくにすぐヘトヘトになってしまっていたのでありがたい。
価格も5万円ほどと、トラッキングデバイスとしては非常にリーズナブルだ。
まぁ、手軽な分いろいろデメリット、というか得意不得意もあるのだけれど。
たとえば……。
「わーバカ、アネゴー!? オマエめちゃくちゃな動きをするかラ、腕が変な方向に曲がってるゾ!?」
「あははっ! ごめんごめん」
「ホラ、今すぐに直立! リセット! ……フぅ~。まったク、気をつけてくレ!」
と、動いているうちにだんだんと位置がズレてきてしまったり。
このあたりは光学式ではない、加速度や角速度センサ式の宿命だな。
ほかにも、表情や指先のトラッキングができなかったり。
まぁ、それについては解決の方法もあるそうだが……今回は”詳しいVTuber”に遠隔で教えてもらうだけではなかなか難しく、準備の時間もなかったので割愛だ。
「けど、ビックリだよ姉ぇ~。
「おかげで助かったゾ。にしてモ、ホントVTuberってほんとマルチタレントが多いナ」
ちなみに、俺が喉を傷めたときに行った手話配信……ハンドトラッキングをするための環境作りや設定を手伝ってくれたのと、同じVTuberだ。
その子はほかにも、今回のおうち3D配信についてアドバイスをくれていた。
じつは最近は、全身トラッキングするだけならスマートフォンのカメラだけでも行えるとか。
しかし、複数人が同じ空間にいる状況での使用は難しいから今回の配信には向かないとか……。
うん、いろいろ教えてくれたけどゴメン! 俺には難しくて理解が!?
というわけで、詳細にはついては……いずれ”本人”が動画を出すらしいので、そのときのお楽しみだ。
「というカ、イロハ。さっきから静かすぎないカ?」
「うっ、バレた! はぁ~、なんでこんなことに。もう帰りたい」
「オマエの家はここだろーガ」
>>イロハちゃん、運動ニガテだからって露骨にテンション低いなw
>>3Dだと肩落としてイジけてるの丸わかりだなwww
>>がんばれー!
「もぉ~! ほら気合入れてぇ~! 今日はイロハちゃんのための企画なんだから~!」
「なんというありがた迷惑っ」
「けど、体力つけなきゃ国際イベントのときに大変でしょ~? せっかくステキなお歌なんだから!」
「うっ」
>>イロハちゃんのソロ曲PV、めっちゃいいよねー!
>>チケット当たるかわからないけど、ライブで聴けるの楽しみにしてる!
>>毎日10回は聞いてる! 聞くたびに笑ってるw
先日PVを公開したのだが、みんなの反応はなかなかに良好だった。
まぁ、ソロ曲を出すなんてはじめてだから、基準なんてあってないようなもんだけどな!
「ほらほらイロハ~、言われてるゾ~」
「み、みんなありがとう……」
「ちなみニ、ワタシは毎日20回は聴いてるゾ! 勝ったナ!」
>>なんで、ファンと張り合おうとしてるんだコイツwww
>>まぁ、オレは毎日30回、聴いてるけどね
>>私は50回
>>ちなみにワタシは毎日100回、イロハサマのソロ曲をお聞きしております!(宇)
>>↑うわっ、出た!? イリーシャだ!
>>↑↑当然のようにコメント欄にイリーシャおるの草
「ナっ!? わ、ワタシだって本当は……せ、1000回聴いてるシ!」
>>それはムリがあるだろwww
>>子どもって誤魔化して大きな数字言うとき、なぜか1000って言うよね
>>あの、ワイはイリーシャのがウソじゃなくてガチってところに恐怖を覚えるんやが……?
「わ、ワタシだってウソじゃなくて本当ニ……! ウぅ~、イロハぁ~! ワタシが一番なのニぃ~!?」
「あっ、こら!? 引っ付いてくるな!?」
>>あら^~。これは目の保養。おうち3Dに感謝
>>ギャー!? おーぐさん、イロハサマになにしてるんですか!? 今すぐに離れてください!(宇)
>>これは1勝1敗で引き分け、かな?
あんぐおーぐが人差し指を目元にあて、「べー」とカメラに向かって舌を出す。
「その動きはmocobiじゃ読み取れないぞー」と、巻き込まれたくない俺は心の中でだけツッコんだ――。
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