第295話『俺の推しがこんなに可愛いわけがない』

「う、うぅ……わたし、汚されちゃった。おーぐにムリヤリ服を脱がさせられて、それで」


「オイっ! その言いかたは人聞きが悪いだロ!?」


「事実でしょ!?」


 狼人間のコスプレさせられた俺は、シクシクと泣きマネして……あっ、ちょっと本当に涙が出た。

 あと、さっきから……。


『はぁはぁ、イロハちゃんぅ~、はぁはぁ……!』


『あたしがもしオオカミ・・・・になったイロハちゃんに襲われたら……』


 マイの目が血走っているし、あー姉ぇのセリフも不穏なんだけど!?

 あーもう決めた。このこと絶対に配信でチクってやるから。そして、それとはべつに……。


「フ、フフ……わかってるよねぇ、おーぐ?」


「お、おいイロハ?」


「まさか、わたしにコスプレさせておいて、自分はそのままで済むと思ってないよね?」


「ちょ、ちょっと待テ!? いったん話し合おうじゃないカ」


「問答無用ぉ~っ! おーぐも同じ気持ちを味わえーっ!」


「ひゃウぅ~~~~!?」


 半泣きのままあんぐおーぐへと襲いかかる。

 人前で強引に服を脱がされて、こんな格好をさせられて、本当に恥ずかしかったんだからな!


 俺は彼女をソファへと押し倒し、見下ろした。

 ざまぁみろ、さっきの仕返しだ!


「おーぐ、観念したならわたしに『ゴメンナサイ』って……、おーぐ?」


 どうせあんぐおーぐのほうが力が強いし、すぐに抜け出されるだろう。

 そう、思っていたのだが。


「イロハ、そノ……するなラ、やさしク……」


「……え!?」


 あんぐおーぐが俺から顔を背けながら言う。

 その頬は赤らみ、瞳は潤んでいた。


『ちょ、ちょっとイロハちゃんぅ~!? マイというものがありながら、なにやってるのぉ~!? 浮気はダメだよぉ~! それにおーぐさんもなに言ってるのぉ~っ!?』


 マイが叫んでいたが、その声はどこか遠くに感じられた。

 あんぐおーぐのどこか艶やかな姿から目を離すことができない。


 顔が熱い。頭がぼーっとする。

 彼女ってこんなにもかわいかっ……って、いやいや!? 俺はなにを考えてるんだ!?


「イロ、ハ。お願イ……」


「……う、うん」


 促されるようにして、俺はあんぐおーぐの服に手をかけた。

 緊張で指先が震えていた。


「……ゴクリ」


 あんぐおーぐの服をはだけさせていく。

 だんだんと彼女の素肌があらわになっていく。


 俺の手はじれったいほどにゆっくりとしか動いてくれなかった。

 彼女の口から「ぁ……」と切なげな吐息がこぼれ……。


「って、人が見てる状況でこんなことできるかーっ!?」


 俺はギリギリで我に返って、コスプレ衣装をあんぐおーぐに投げつけた。

 あ、危ないところだった!? もうすこしで俺は……。


「いいからいいかラ! さぁイロハ、続きヲ……!」


「続きは自分で着替えて! なんでわたしが脱がさなきゃいけないの!?」


「エぇ~?」


 あんぐおーぐがケロっとした様子で頬を膨らませる。

 こいつ、さっきの演技だっただろ!


「ムぅ~。べつに脱がし合いっこくらい毎日、お風呂デ……」


「なにか言った!?」


「べっつニー」


 あんぐおーぐが「ピーヒョロー」と口笛を吹いて誤魔化している。

 お風呂とこれは話が違うだろ! 具体的にどうとは言えないけど、ちがう!


『イロハちゃんぅ~、マイは信じてたよぉ~! イロハちゃん脱がしていいのも、イロハちゃん脱がしていいのもマイだけだもんねぇ~!』


『い、イロハちゃんに押し倒されて、ムリヤリ……はぁあう』


「マイでもダメだからね!? それとあー姉ぇ、戻ってこーい!」


「まったク、仕方ないナ。素直に着替えるカ。って、この格好ハ」


 あんぐおーぐはやや困惑しつつ、衣装に着替えた。

 真っ黒なマントに黒い翼。そして、長く伸びた牙。その姿は……。


「おー、吸血鬼だー」


 俺が狼人間で、あんぐおーぐが吸血鬼か。

 ある種、対照的なコスプレだな。


「ワタシのも露出多くないカ? それニ……ムぅ~。ワタシはヴァンパイアじゃなくてゾンビなんだガ」


「あ、そこはこだわりあるんだ」


「イヤ、待てヨ? ……カプッ!」


「ひゃうんっ!? ちょ、ちょっとおーぐ、くすぐったいっ!?」


「あむあむ……これでイロハはワタシの眷属だナ! フフフ、ワタシの命令にしたがってもらおうカ!」


「もうバカっ!」


『ぬぎぎぎぃ~!? ま、またイロハちゃんとイチャイチャしてぇ~!? マイも「カプっ」なんてしたことないのにぃ~!? ゆ、許せないぃ~!』


『ちょ、ちょっとマイ!? そんなに暴れたら!』


『えっ……きゃ、きゃぁあああぁ~!?』


 ブチッ! と音が響いた。

 包帯がほどけ、マイの身体がクルクルと勢いよく回転し……。


「あ!?」


「オイっ!?」


 マイが床へと落っこちた。

 そのころには、ほとんどの肌が露出してしまっており……。


『イヤぁ~~~~!?』


 マイが顔を真っ赤にしながら、座り込む。

 包帯をかき集め、必死に隠そうとしているが……その、大きすぎて隠しきれていないというか。


「ま、マイのヤツ。いったイ、いつの間にそんナ? だってワタシと全然、ちがウ……」


『み、みんな見ないでぇ~!?』


「ご、ごめん!?」


 俺は慌てて視線を逸らした。

 あんぐおーぐはマイを見ながら、ポフポフと自分の胸元を確かめるように叩いていた。


「そ、それよりあー姉ぇは!? みんなにコスプレさせておいて、自分だけしてないなんてことはないよね?」


『フッフッフ、よくぞ聞いてくれました! もちろんですとも! あたしは……』


 言って、ずっと見切れていたあー姉ぇがカメラを自身のほうへと向けた。

 彼女が着ていたのは――。

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