第257話『オ・ベン・トー』

「あっ、愛妻弁当じゃないから!? 本当にちがうからね!?」


 あんぐおーぐめ!?

 おかげでとんでもない勘違いをされてるんだが!?


 とはいえ、トゥイッターに写真を挙げているのはもとから知っていたんだが。

 推しのトゥイートをチェックするのは義務だし。


 ただ最近は、閲覧制限がかかったりで俺の日課にも支障が……。

 って、その話はいいか。


「えー、あーっと、話を戻すけど!」


>>なんの話だっけ?

>>イロハちゃんがおーぐのこと好きすぎって話じゃなかった?

>>そうそう、アメリカ滞在の理由が「ハネムーン」って話だったね(米)


「だれもそんな話してないけど!? カフェテリアの話だったでしょーが!」


 なんでこういうときばかり、コメント欄が一致団結するんだ!?

 まぁ、俺も視聴者側のときは同じようなコメントを打つんだけどな!


 しかし、俺とあんぐおーぐは断じてそいう関係ではない……はず。

 すくなくとも今はまだ。


>>けど、カフェテリアってずいぶんとオシャレやな

>>紅茶とか飲んでそう

>>日本の学食もそれくらい豪華ならなぁ


「いやいや、そんなティータイムみたいな感じじゃないよ。大きなフードコートに近いし。ただ、日本の学生食堂とは明確な違いがひとつだけあって……それは、めちゃくちゃ広いこと」


 そのあたりはさすがのアメリカクオリティだ。

 もちろん学校によっても違うのだろうが……。


 すくなくとも俺が通っているハイスクールでは、”イス取りゲーム”をする必要がない。

 前世の学生時代に、座れずトレイを持ったままうろうろしていたのが懐かしい。


 逆に、全員が座れるほどの席があるせいか、なかば指定席になってしまっているくらいだ。

 授業こそバラバラだが、お昼は同じテーブルに集合するのがお決まりになっている。


「メニューはハンバーガーとかフライドポテト、ナチョスとかタコスが売ってたかな。といっても、わたしはまだ食べたことないんだけどね。毎日、お弁当を作って持って行ってるから」


 もし自分ひとり分なら、面倒くさいし手作りなんてしないのだが……。

 どうせ、あんぐおーぐのお昼ご飯も作らないといけないから、仕方ない。


>>カフェテリアのご飯は食べなくていいよ、マズいから(米)

>>なんでもうちょっと、おいしく作ってくれないんだろうね(米)

>>イロハの手作り弁当を毎日のように食べられるおーぐが羨ましすぎる(米)


>>アメリカだと、イロハちゃんみたいにお弁当を持参する人は少数派なのか

>>↑持参する人はいるけど、日本みたいな”オベントー”とは全然違うよ(米)

>>↑↑私の学校はタダだけど、マズすぎて食べられないからお弁当を作って持って行ってるよ(米)


「日本のお弁当とはちがう……どうりで。簡単に作っただけなのに、やけに注目されると思ったら」


 適当にありあわせを詰めただけの、日本ではよくあるお弁当だ。

 だが、こっちでそれを持って行くと、一緒にご飯を食べている女子から毎度のように「それはなに!?」「宝石箱!?」と大げさな表現で、質問攻めにされていた。


>>あれが「簡単に」なのかい!?(米)

>>てっきり、イロハが愛妻のためにすさまじい愛情と手間暇をかけて作っているのだとばかり(米)

>>愛さえあれば”その程度”の労力にしか感じない、ってことじゃないのか?


「ちがっ、本当に! そんな手間暇なんてかけてないから!?」


>>お弁当……アニメの中だけのファンタジーだと思っていたのに、実在していただなんて!(米)

>>ボクはアニメで”オベントー”が出てくるたびに、羨ましすぎて血の涙を流しているよ(米)

>>私のお弁当なんて、タッパーにクラッカーやサンドイッチを入れただけなんだけど(米)


「言われてみると、まわりもみんなタッパーだったかも」


>>毎日、ランチャブルーズのオレよりマシだろ!(米)

>>↑なにそれ?

>>↑パック売りされてる……なんだろう? お弁当?(米)


>>↑よく、それの小さなピザ生地とピザソース、サラミとチーズが入ったやつ食べてたわ(米)

>>↑そんなにおいしいんだ?

>>↑……ミドルスクール時代の給食よりはマシ、だったかな(米)


 なんというか、みんなそれぞれ昼食になんらかの恨みがあるらしかった。

 そう考えると日本の給食って、すごくレベルが高かったのかも。

 俺はとくに好き嫌いもアレルギーもなかったから、困らなかったし。


「あっ。あとはそもそもお昼休みじゃなくて、授業中の教室内で食べてるパターンもあるかも?」


>>授業中に!?

>>オレも大体、授業中にリンゴ食って済ませてたな(米)

>>アメリカだとよくある光景だよね(米)


 それは生徒にかぎらず先生もそうだ。

 授業しながらリンゴを齧っていたり、生徒がテストを解いている間にお弁当を食べていることがある。


「国ごとの食事事情もこうして比べると、なかなかおもしろいね」


>>けれどイロハちゃん、あまり人からもらった食べものは食べちゃダメだからね(米)

>>あと、自分の飲みものからは目を離さないこと(米)

>>睡眠薬を盛られる事件が毎年のように起きてるから(米)


「えっ。おーぐに言われて水筒は持参してたんだけど、まさかそんな事情があったとは」


>>おーぐグッジョブ(米)

>>とくに、イロハちゃんみたいにかわいい子は狙われやすいと思うし(米)

>>十分に気をつけてね(米)


 とはいえ、仮に俺が標的になったとしても優秀なボディーガードがついているし……。

 むしろ、相手のほうがかわいそう目に遭いそうだけどな!


   *  *  *


 そんな配信の直後だった。

 マイからの着信があった。


「おーぐさんだけズルいぃ~! マイはイロハちゃんに手作り弁当なんてもらったことないのにぃ~!?」


「いやいや、小学校は給食だったでしょーが」


「うぅ~! 同じ高校に入るまでなんて、待ってられないよぉ~!」


「なんで、わたしが作る前提!? わたしはマイのママじゃないんだけど!?」


「じゃあ、パパでもいいからぁ~!」


「なにもよくないけど!?」


 あんぐおーぐめ、やっぱり面倒なことになっただろうが!

 まったく、明日のお弁当……イタズラされても文句言う権利ないからな?

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