第230話『VTuberの初耳学』


「というわけでやってきました、新企画! ”イロハちゃんの初耳学”~!」


 あー姉ぇが俺のとなりで、元気にタイトルコールする。

 配信上では『ドンドンパフパフー』と愉快なSEが鳴っていた。


「というわけで”みんな元気ぃ〜?” みんなのお姉ちゃん兼、今日は司会進行役の姉ヶ崎あねがさきモネでーすっ☆ そして、こちらが本日の主役~!」


「”わたしの言葉よあなたに届け” 翻訳少女イロハでーす。うぅっ、また変な企画に巻き込まれてしまった」


>>アネゴ好きだぁあああ!

>>イロハロ~!(米)

>>イロハちゃん、まーたアネゴに振り回されてるwww


「今回の企画はタイトルのとおり、言語にまつわるクイズを出し、見事イロハちゃんに『初耳!』と言わせられたら勝ち! って感じだ姉ぇ~!」


「えっ、クイズだったの!?」


「問題は視聴者や、ほかのVTuberさんからも募集してます! そして見事、勝利した人には……イロハちゃんに好きなセリフを言わせられる権利をプレゼント~!」


「この勝負わたしにデメリットしかなくない?」


「じゃあ、まずはあたしから!」


 あー姉ぇが俺の抗議を完全にスルーして、企画を進行させる。

 テテン! とSEが鳴って、問題文が表示された。


「問題。トレンチコート――」


「塹壕」


>>あっ

>>瞬殺すぎるwww

>>まだ、問題文すら読み終わってないのにwww(韓)


 ちなみに、画面に表示された問題文は『トレンチコートの名前の由来は?』だった。

 答えは、名前のとおり『塹壕トレンチ』での防寒対策用に作られた上着だ。


 たしかに俺はミリタリー方面との相性がテキメンに悪いし、知識も薄い。

 だから、攻めどころとしては悪くはなかったのだが……。


「ふ、ふふふ……イロハちゃん、なかなかやる姉ぇ~」


「いや、だってそれシューティングレンジに行ったとき、インストラクターさんが教えてくれたやつじゃん」


「な、なぜイロハちゃんがそれを~!?」


「なんでもなにも、その場にいたし。というか、わたしが通訳してあー姉ぇに教えてあげたんだけど」


「……そうだっけ?」


>>これは草

>>おい、初手ポンとか放送事故だろw

>>アネゴの配信じゃあ、これくらいは軽いジャブさ!(米)


「……よ~し! じゃあ練習問題も終わったことだし!」


「サラっとなかったことにするなっ!」


「第2……じゃなかった、第1問は視聴者・・・からの出題です! どうやらこのも、一緒に先日のシューティングレンジを体験……じゃなくて、配信を見てくれていたみたいだ姉ぇ~!」


 あー姉ぇがさっそくボロを出していた。

 案の定、視聴者にはバレバレだった。


>>その子っていうか、お前の妹だろw

>>やっほー、妹ちゃん見ってる~!?

>>妹ちゃんもガチのイロハフリークらしいから、本気でご褒美を狙ってるんだろう(韓)


 ちらりと振り返ると、同室内で自習していたマイが「ふんすっ!」と鼻息を荒くしていた。

 完全に身内採用だな。


「では……問題。戦車はなぜ『タンク』と呼ばれることになったでしょ~か?」


「えっと、うーん?」


 すこしだけ考える。

 チクタク、と時間制限があるかのようなBGSが配信に流れていた。


 またミリタリー方面か、厄介な。

 的確に俺のニガテを突いてきている。


 この答えは俺も知らないし、考えたことも気にしたこともなかったな。

 おそらくはマイが英語でひとり、拙いながらもインストラクターさんに質問して仕入れたネタなのだろう。


「タンク……”貯水槽”も同じくタンクって呼ぶよね? あー、じゃあアレかな。最初は戦闘用の車両じゃなくて『水を運ぶための車両』だったから、とか?」


「ファイナルイロハー?」


「なにその恥ずかしいフレーズ!? まさか、これから毎回それを言うつもり!?」


「……ファイナルイロハー?」


「繰り返さなくていいから! ていうか……えっ。もしかしてこれ、わたしも言うまで進まない感じ? ……ファ、ファイナルイロハー」


 なんかもうすでに、罰ゲームを受けている気分なんだが!?

 あー姉ぇが深刻そうなな表情を作り、たっぷりとタメを作って焦らす。


「イロハちゃん……」



「――残念!!!!」



 デレレレーン! とSEが不正解を告げた。

 えぇ~っ、2問目にして!? 俺は全問正解するつもりでいたんだが!?


「いや~、イロハちゃんがこんなに早く間違えるとは。あたしも意外だった姉ぇ~」


「ほ、本当に間違い? たしかに”初耳”ではあったけど、ほかに理由が考えられないし!?」


「惜しかったんだけど姉ぇ~。正解は、飲み水を運ぶための車両……」


「合ってるじゃん!?」


「――を開発しているように”見せかける”ためでした~!」


「わかるか、そんなのー!? ほとんど合ってるじゃん! 語源としてはむしろ、完璧じゃん!」


「まぁでも、語源クイズじゃないし?」


「うわっ、ズリぃ!?」


 ちらりとマイに視線を向けると、ガッツポーズをしていた。

 狙いどおり、というわけか。完全にしてやられたな。


「では、勝者からの要望を……ふむふむ。なんでも最近? 好きな人に勉強を教えてもらっていて? そのうち……ほほう! 家庭教師シチュにどハマりしてしまったと!」


「おい」


「それで言って欲しいセリフは――」


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