閑話2『クリスマス~あんぐおーぐ編~』


 マイと転校生。

 ふたりからもらったクリスマスプレゼントを見比べる。


 相変わらず、こういうコツコツした作業をやらせたらマイは本当にうまいな。

 転校生も俺の好みをじつに理解している。使いやすそうな、シンプルでおとなしい色合い。


 正直、どちらも小学生が作ったとは思えない出来栄えだ。

 こんなに手の込んだものを貰ってしまうと、さすがに申し訳なくなる。


「ありがとう。けど、ごめん。わたしからプレゼント用意してない」


「イエっ、ワタシが一方的にプレゼントしたかっただけナノデ!」


「えぇ~? じゃあマイは『なんでも1個いうことを聞いてくれる券』でいいよぉ~」


「お前は遠慮しろ」


 とはいえ、なにも返さないというのも居心地が悪いな。

 かといってシャレたものが思いつくわけでもなく。


「あ~、なんか欲しいものとかある? わたしにあげられるものであれば、プレゼントするけど」


「エッ、いいのデスカ? それじゃあ、ソノ……」


 転校生が勇気を振り絞るように、震える手で俺の首元を指差す。

 そこにはまだ登校したばかりで付けっぱなしになっていた、使い古しのマフラーが巻かれていた。


「え、こんなのでいいの? 新しいやつ買ってから渡すけど」


「イエ! そ、ソレがいいンデス!」


「あーっと、なるほど。じゃあ、はい」


 その場で脱いで渡してやる。

 転校生は瞬間「ヤッタ~~~~!」と飛び跳ねた。


 プレゼントしたこちらが困惑するほど、よろこんでくれる。

 感激のあまりか、涙を流しながら「ありがとうございます!」と繰り返していた。無意識にか母国語が出ていた。


「ど、どういたしまして」


 自分が推す側の立場のことならわかる。

 けれど、推される側でのリアクションはいまだに正解がわからない。


 なんだかちょっと、気恥ずかしい。

 照れる。


「イロハちゃん、マイもぉ~! えーっと、えーっとぉ~」


 マイはそんなやりとりを見て、手を挙げた。

 そして、視線を俺の手元に向けたところで固まる。


 転校生はマフラーのお礼にマフラーを貰った。

 なら「自分も手袋を」と思ったのだろうが、あいにく俺は手袋をしていない。

 スマートフォン弄るのにジャマだし。


「仕方ない。代わりにパンツを……んぎゃっ!?」


 俺はマイの顔面に、丸めた靴下を叩きつけた。

 お前にはそれで十分だよ!


「酷いよイロハちゃ……すぅ、はぁ~。イロハちゃんの脱ぎたて靴下……むふふぅ~」


「おい待て、やっぱりそれ返せ」


「もうマイがもらったんだもぉ~ん! ひゃっほぉ~!」


「コラ、逃げるなっ!?」


「イロハサマはここでお待ちヲ! ワタシが取り返してキマス! 待ってクダサイ、マイサン! その靴下はワタシのモノデス!」


「お前のでもないが!?」


 もしかすると、選択肢を間違えたかもしれない。

 「お前にやるプレゼントはない」という意味で”靴下だけ”を渡したつもりだったんだが。


「はぁ……」


 片足がスースーする。

 足をすり合わせていると、スマートフォンが震えた。


『イロハ、いきなりで悪いが、クリスマス配信にゲスト出演できないか?』


 メッセージの差出人はあんぐおーぐだった。

 もし、10分前にこのメッセージを受け取っていたら、確実に断っていただろう。


 けれど、俺はさっきの転校生とマイの話を聞いて……。

 推される側の感情を理解するのは難しい。けれど推す側の気持ちならよくわかるから。


『オーケー』


 俺はそう文字を打ち込んだ。


   *  *  *


《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです! みんな、ハッピーメリークリスマス!》


>>メリークリスマス!(米)

>>クリスマス配信助かる!(米)

>>正確にはまだイブだけどな!(米)


「うおぉおおお! おーぐぅううう! メリークリスマスー!」


 俺もまたひとりの視聴者として、そんなイチ推しのクリスマス配信を見ていた。

 モニタの前にはケーキとチキンが並べてある。


《今日はクリスマスということで、凸待ち配信するぞ! といっても、事前に相手にはアポ取ってるんだけどな!》


>>自分からバラしていくのか(米)

>>この時期、日本勢はクリスマスライブとかで忙しいもんな(米)

>>おーぐと食べるためにごちそう用意したよ!


《おー、日本ニキもありがとなー。ワタシも今日はいろいろと用意したぞ。ほら見て、写真》


>>え、微妙じゃね???(米)

>>ええやん!

>>めっちゃ貧相で草(米)


《やめろ、お前ら! 泣くぞ!? 一人前なんだからこんなもんだよ! それにせっかくだから今日は、アメリカ式じゃなく日本式にしようと思って準備したんだ》


>>そういえば日本じゃターキーじゃなくフライドチキンを食べるんだっけ?(米)

>>クリスマスとケーキになんの関係があるんだ?(米)

>>端っこにあるのはワイン?(米)


《そうそう。日本産のスパークリングワインらしいぞ。すっごく甘いんだって! ワタシは苦いのダメだから、ちょうどいいなと思って。よし、みんなも料理の準備はいいか? ――カンパーイ!》


 俺もまたモニター越しに「カンパイ!」とコップを傾けた。

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