第50話『恐怖! 確定申告!』

「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす。みんなー、お待たせ―」


>>イロハロー!

>>受験おつかれさま!

>>待ってた~!


 無事に受験も終了したので俺はVTuber業を再開していた。

 久々の配信だからか、ちょっと緊張するな。


「受験の結果ですが、無事に合格しました~!」


>>おめでとー!

>>¥10,000 合格祝い

>>¥1,680 入学金の足しに


「みんなありがとー。と言いつつ、じつはA特待取れたから入学金と1年間の授業料は免除なんだけどね。あとは制服とか教科書が買わなくても進呈してもらえたり」


>>さすがイロハちゃん

>>特待はデカいな

>>イロハちゃんならS特待でもおかしくなさそうやのに


「いやいやいや、さすがに買いかぶりすぎだって。学校にもよるだろうけど、ウチの場合は全科目で80%以上取るのが条件らしいし」


>>さすがに配信と並行じゃキツいか

>>中学受験って6割取れれば合格ラインやろ?

>>そんな中で8割とか難易度高すぎ


「3年間授業料免除の壁は高いねー。来年からの支払いを考えると憂鬱だ~」


>>私立中学って年間100万とか平気でかかるもんな

>>相応に特待の難易度も高くなるわけか

>>世の中のヤツら、金持ってんなぁ


「同感。まぁ少子化によって、子どもひとり当たりに掛けるお金は逆に増えてるらしいからねぇ。都市部じゃ4人に1人は中学受験してるらしいし。時代だねー」


>>おまいうwww

>>セリフが家庭持ちのサラリーマンなんだよなぁw

>>じゃあ、もうあとは卒業を待つだけか


「そう、思うじゃろ?」


>>あっ

>>察し

>>ついにこの時が来てしまったか


 じつは最大の敵はすぐそこまで迫っていた。

 すなわち”税金”だ。


「というわけでやってきました。確定申告のお時間です!」


>>ぎゃぁ~~~~!?

>>聞きたくない

>>俺もやらなきゃ


「おかしいなー? 受験も終わったしあとは卒業までのんびり、と思ってたのになー!」


>>時の流れが早すぎんよぉ

>>この間したばっかりだと思ってたのに

>>やること多いしわかりにくいしほんと嫌い


「わたしは税理士さん雇ってるからまだマシなんだろうけど、それでも想像していた数倍は面倒くさいね、これ」


 かといってやらないわけにもいかない。

 犯罪になってしまう。


 これが会社員の場合、確定申告しなかったとしてもをするだけ。

 すでに源泉徴収により、給与から所得税が天引きされているから。


 だから、確定申告をしたところで払いすぎた分が返ってくるのみ。

 その確定申告すら年末調整という形で会社がやってくれている。


 しかし自営業の場合はそうはいかない。

 まだ所得税を納めていないからだ。


 そのため確定申告をしないと、をしてしまう。

 ゆえに脱税として、厳しく罰せられる。


「税理士さんが『今回ははじめてだし早め早めにやっておきましょう』って」


 確定申告も納税も基本的には2月中旬から3月中旬まで。

 遅れて延滞税がかかったり、控除を受けられなくなったら目も当てられない。


>>イロハちゃんくらい収入あるなら青色申告か

>>あれ? 青色申告って事前に申請必要じゃないの?

>>そもそも、MyTubeの収益って源泉徴収されるようになったんじゃなかったっけ?


「わたしも又聞きだから、もしかしたら誤解があるかもだけど」


 まず確定申告には白色と青色が存在する。

 白色申告は簡単だが控除が少なく、青色申告は面倒だがたくさん控除される。


 控除が多いほど税金が安くなる。

 自営業で一定以上に稼いでいるなら青色申告のほうが得だ。


 最大で55万円×税率……。

 大げさにいえば青色申告すれば10万円や20万円がもらえるわけだ。

 そう聞けば、どれだけ大事かわかるだろう。


 そして青色申告をするためには条件がある。

 そのひとつが、事業をはじめてから2ヶ月以内に承認申請書を提出すること。


>>そんなん絶対に知らん人多いやろ

>>俺もこのせいで初年度の青色申告できんかったわ

>>こういうのこそ義務教育で教えて欲しいよな


「同感。わたしもあー姉ぇに言われてなかったら、絶対にやってなかったと思う」


 続いてMyTubeが源泉徴収されるようになった件についてだが、事実だ。

 規約が改訂されて、そのようになった。


 ただし源泉徴収される先は、アメリカだ。

 なのでそのままだとアメリカと日本の双方から税金を取られてしまう。

 二重課税なんて破産まっしぐらだ。


 しかし、幸いにも日本とアメリカの間には”租税条約”が結ばれている。

 MyTubeに『税務情報の申告』を行うことで、アメリカに徴収される税率を0%にできる。


 租税条約を結んでいないブラジルやインド、ベトナムなどは大変らしい。

 アメリカの視聴者から得た収益の3割が税金で消えるそうだ。


 ちなみに俺も収益化してすぐに税務情報を申告している。

 その際はマイナンバーが必須だった。


「なんだかんだマイナンバーカードってあると便利だよね。こういうときすぐに確認できるし」


 とくに俺の場合は未成年で免許も持っていない。

 顔写真付きの身分証として提出するシーンも多い。

 デビュー前、あー姉ぇに言われて作っておいてよかった。


>>俺も作っとこうかな

>>今ってたしか全部で2万円分のポイントもらえるんやっけ?

>>使い道は知らんけどポイントもらうために作ったわ


「あとはどれだけ税金対策できるか、だねー。まだまだこれからも入り用だから」


 いったいいくらになるのか、想像するだけで恐ろしい。

 場合によっては来年分の税金を半額、先に納めなければならない”予定納税”まであるそうだ。

 破産しそう……。


>>おっ?

>>入学金以外の入り用ってことはまさか

>>いよいよアレのお披露目か!?


「え? ちがうけど? 大事な入り用、それは――バレンタインイベントで推しのみんなにスパチャすること! すなわち、推しのみんなからチョコをもらうことだよ!」


>>なんでそうなるんだよ!?


 俺はコメントから総ツッコミを受けた。

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