第26話『研究発表会(済)』

「いやぁ~、にしてもあの研究はすごかった姉ぇっ☆」


「ほんと驚きだったよ! まさかのダークホース! あのVTuberがあんなユニークなアイデアと工作の才能を隠し持っていたなんて!」


「ほんとだよっ。あたし定期的にあの部分を見返しちゃいそう! 満場一致。文句なしの優勝。全員が納得の結果だった姉ぇっ☆!」


 というわけで無事、VTuberの自由研究発表会は終了した。

 配信終了後も興奮冷めやらず、俺たち数名は残って雑談をしていた。


 いやー、本当にすばらしい配信だったな!

 もしもこの配信を見逃した人がいたとしたら、本当にもったいない!


 え? 見た記憶がないだって?

 またまた~、まさかそんな人はいないだろう! がっはっは!


「イロハちゃんの自由研究もある意味ではすごかったけど姉ぇっ☆」


《イロハの研究は……なんだあれ、論文か?》


《う、うるさいなぁ! おーぐだって似たようなものでしょ!》


《仕方ないだろ! 日本風の自由研究なんて知らなかったんだから!》


 今回の発表会は予想外に国際的なものとなった。

 参加者は日本とアメリカと韓国と。それぞれのお国柄による違いが研究に出ていた。


《アメリカにもサイエンス・フェアはあるけど、日本ほど”ジユウ”研究じゃないんだ! ほら、こんな感じ!》


 ポコン、とメッセージ。URLが張られている。

 驚いた。アメリカだと小学生でここまで本格的なプレゼンや発表を行うのか。


【けれどイロハさんの発表はすばらしかったと思います。国ごとにVTuberの数やその推移、視聴者の国籍比、多言語VTuberの割合などをまとめてくださっていて。私にとって、これからのマーケティングに非常に役に立つ情報でした。ありがとうございます】


【そんな、お礼なんて! 元々、この企画がなくても調べてただろうし】


 チートじみた能力をもってしても外国語を学ぶには時間がかかる。

 言語にもよるが、ひとつあたり数週間。


 優先順位づけはどうしても必要だ。

 なるべく、推しがたくさんいる言語から学びたいところ。


【0〜1桁しかVTuberがいない国がまだまだ多いのは寂しいな。VTuberという文化をもっと広げていきたいよね】


【な、なるほどそういう話じゃったんか。い、いや、ウチもわかっちょったよ!? ホンマじゃけぇ!】


【ムリしなくてもええんやで】


【うわぁあああん! やっぱウチいらん子じゃぁあああ!】


【あははっ。そういえば韓国も自由研究って日本と同じ感じなの?】


【夏休みに自由研究をする人はいます。けど私はしたことありません。韓国では夏休みの課題は選択式なので】


【へぇ~! 選択式って、ほかにどんな課題があるの?】


【本を50冊読むとか、運動場を毎日3周走るとか】


【お、おぅ……】


【あっ、もっと簡単なやつもありますよ。それに、韓国の夏休みには日本みたいな”シュクダイ”もありません。代わりにほとんどの子が塾へ行っていますが】


 へー、そんな感じなのか。

 韓国の小学生も苦労してそうだ。


「視聴者投稿の自由研究もよかったよねー。個人的にはアレが好き。オリジナルのペーパークラフト。わたし、おーぐの型紙ダウンロードしちゃった」


「わぁ~! それめっちゃ”てぇてぇ”やん!」


【”おーぐ・ハ・イロハ・ノ・ヨメ”】


「嫁じゃないから!? 推しではあるけど! 《ちょっと! おーぐがわたしのファーストキスを奪ったから、みんなに誤解されちゃってるじゃん!?》」


《おいっ、ファーストキスとか言うなよ! ノーカンだろ! だいたいアレはイロハがっ!》


《あーあ。おーぐが未成年の女の子を襲っちゃうような人だったなんて。そんなに女の子好きだったんだ~?》


《やめろバカ! ワタシに”ユリ”属性はないから! イロハだって女の子が好きってわけじゃないだろ!?》


《いや、普通に女の子が好きだけど?》


《!?》


 あ、忘れてた。

 今の俺は女だった。


《え? これワタシのせいか? 小学生女児の性癖を歪ませちゃった? 責任、取ったほうがいいのか?》


《えーっと、これは元々だから》


《!?!?!?》


《あ、いや、ちがうよ。全部ジョーク》


《びっくりしたぁ~! お前、アネゴみたいなスレスレの冗談やめろよ!》


 危ない危ない。フォローしようとしたら余計に変な方向に転がりかけた。

 まぁ、もう視聴者も見てないし、英語だし、そこまで気にすることもなかろう。


「えー、あとはアレ! アネゴメーカーもすごかったよね! あー姉ぇに好きなセリフをしゃべらせられるやつ。……ふ、ふふふ。毎朝『ごめんなさい』って言わせたい」


「い、イロハちゃん!? ストレス溜まっちょるん!?」


「あー姉ぇとちがって必要なときしかしゃべらないのがいいよねぇ」


「ひぃいいい!? イロハちゃんがダークサイドに!」


 わいわい、がやがや。

 みんな配信者だけあってトークがうまいので、会話がはずむはずむ。


 今さらだけど、もったいないなこれ。

 仲間内だけで楽しむんじゃなく――。


「この会話、配信上でやればよかったねー」


「今、わたしも同じこと思ってました」


「うわっ、ホンマやわー。めっちゃオモロいことしゃべっちょったのに。ここで話したこと、後日の雑談配信で取りあげてもええー?」


「いいよー」


「あんがとー」


 まぁ、もし本当に配信していたら、俺の爆弾発言が拡散されていたわけだが。

 いやー、これがオフで本当によかった。


 って、あれ? そういえばあー姉ぇがやけに静かだな。

 アネゴメーカーとちがい、必要なくてもしゃべり続けるのがあー姉ぇらしさなのに。


「あ、あの~……みんなにひとつ、お伝えしたいことが~」


「どうしたの、あー姉ぇ? そんなにかしこまって。というか今日、ずいぶんと静かだね」


「あ~、いや~、じつはそのぉ~」


「なにをそんなに言いよどんでんの? はっきり言いなよ」


「じゃあ言うけど……」



「――配信、切り忘れちってたっ☆」



「あー姉ぇえええ!?」「アネゴさぁあああん!?」【アネゴさんぅうう!?】《アネゴぉおおお!?》


「ごめんなさぁあああい!」


 お前、配信何年目だぁあああ!?

 え、ちょっと待って。切り忘れてたっていったいどこまで?


 はっ!? まさか、俺の「女の子が好き」発言も!?

 ……ぎゃぁああああああ!?


 アウトだった。当然のごとく、会話は切り抜かれた。

 これ以降、あー姉ぇは配信終わりに『配信切ったか?www』とコメントが流れるようになった。


 また、俺には”百合”のレッテルが張られた。

 しかもあんおーぐとファン公認のカップルみたいな扱いに……。


 なんでこんなことにぃいいい!?

 やっぱりあー姉ぇ、お前は毎日謝罪しろぉおおお!


   *  *  *


 そんなこんなをしているうちに、夏休みももうすぐ終わりだ。

 塾の夏期講習も、総まとめである模試を受けて一区切り。


 出来はまぁ、悪くないと思う。

 この1ヶ月、忙しかったわりにはがんばったほうだ。


 最後に、今後についての面談とのことで母親と揃って塾に呼び出された。

 案の定、話の内容は入塾に関する案内だ。


 俺ははっきりと辞退を告げようとし――。







 ――母親が倒れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る