第9話『イマドキの女子小学生』
「デビューしたはいいものの、配信ってなにをすればいいんだろう?」
ふと、俺は思って口に出した。
ここまで勢いで来てしまったからなぁ。
「学校であったことを話してればいいんだよ」
「そんなのでいいの?」
「そんなのがいいの。ぶっちゃけリアル小学生女子の日常ってだけで、視聴者からすりゃ十分に非日常だし」
大いに納得した。
小学生女子の生態ってマジでナゾだもんな。俺も現在進行形で体感している。
「あ、けど個人情報とか身バレ防止のために、いろいろ伏せたりフェイク入れたりはしてね。あったできごとをすぐじゃなくて、期間を空けてから話すとか」
「ん、了解」
「ま、イロハちゃんかしこいしそこまで心配してないけどね。それよりも、個人勢で大切なのは差別化だね。その点、イロハちゃんはめちゃくちゃ強い。小学生女子ってだけで特別なのに、そこにバイリンガルが加わればオンリーワンといっても過言じゃないから」
正確にはバイリンガルではないのだけれど、一理ある。
なので、俺はあー姉ぇのアドバイスそのまま『一般的な女子小学生の日常』というタイトルで配信した。
体育しんどいとか、給食はカレーが一番好きだとか。
そしたら、なぜか……。
>>草
>>ワロタwww
>>アネゴ妹が不憫かわいいw
なぜか、マイが笑いものになってしまった。
すまん。けど毎回オチを作るお前も悪いんだぞ。
>>こんな姉妹、友だちに欲しいわ
>>ところでさっきから、アネゴ妹以外が話題に出てきてないけど
>>イロハちゃんって、アネゴ妹以外に友だちいないの?
「おおおおるわ! ちゃんと、アネゴ妹以外にも仲のいい子くらいおるわ!」
>>あっ…
>>ここでは見栄なんて、張らなくてええんやで
>>大丈夫、イロハちゃんには俺たちがいるから
「だから友だちいるっつってんだろぉおん!? いや、たしかにね? わたしは小学生女子の娯楽がよくわかんなかったりするけどね? ……ていうか本当に、なんでシール集めてるんだろう? カワイイってなんなんだろう?」
>>急に哲学はじまって草
>>【悲報】自称、一般小学生女子、女子小学生がわからないw
>>友だちできない理由それだろw
>>全然、一般的な女子小学生じゃなくて草
>>これは逸般的、女子小学生ですわ
>>IQちがいすぎると会話通じないらしいけど、それじゃね?
「いやいや、前も言ったけどわたしそんな頭良くないからね? ……それなのに最近、親がわたしの成績と配信をきっかけに中学受験させようとしてきてるんだよねぇ。『あんたそんなに勉強できたん? じゃあ中学受験してみぃ』って」
>>イロハちゃん中学受験するの?
>>中学受験、懐かしいな
>>そんだけ勉強できるなら受験すべきやと思うで
「え、みんなわりと肯定派なんだ、意外。配信頻度減るけどいいの?」
>>中学受験なんてやめよう!
>>中学受験なんていいことなにもないぞ!
>>世の中には勉強よりも大事なことがたくさんあるよ!
「手のひらクルクルすぎない!? けど、仮に中学受験するってなったらなにすればいいんだろ」
>>寝る
>>遊ぶ
>>配信
「失敗させようとするな!?」
>>草
>>お前ら好きだわwww
>>マジメな話、中学受験は対策勉強しなきゃダメ
「え、そんな専用の勉強いるの? それって難しい?」
>>学校によるけど、ガチでムズい
>>俺は平日3時間、休日10時間は勉強してた
>>小6から中学受験はさすがに厳しくね?
「うわっ、そんな感じなんだ。あー、こりゃわたしじゃ絶対ムリだね。時間もないし。親が『やればできる』と思ってるのが不思議でならないよ、まったく」
>>自分のスペック自覚しろwww
>>俺がイロハちゃんの親でも、同じこと言ってると思うわw
>>親の心、子知らず
>>可能性上げるなら4教科じゃなく5教科受験するとか?
>>↑なるほど、英語あるほうがイロハちゃんの場合は有利かもな
>>イロハちゃんなら受かるだろう、と思ってしまう俺がいるw
あー、そうだった。
当然だが、視聴者は俺が転生していることも、英語力が”あとづけ”であることも知らないんだった。
「えーっと、ともかく。諦めてもらうにしても現状、どんな問題なのか、どんな難易度なのかもわかってないからなー。なにかいい手はないものか」
>>難易度なぁ
>>親は子どもに無限大の可能性を見ちゃうから、余計にやな
>>配信で過去問やるとか?
「え、過去問! それグッドアイディア! よし決めた。中学受験の過去問を使って、学力テスト配信をしよう! あーでも垂れ流しだとダレるし、答え合わせだけ配信しようかな?」
>>たしかに長くなりそう
>>配信して欲しいな
>>並走するわ
「おっけ、わかった。じゃあ、解いてる配信については見たい人だけ見る感じで。一緒に問題に挑戦したい人はご自由に。具体的にどの過去問やるかとか、いつやるかとかは決まったら改めて告知するね」
>>おっけー
>>お前ら小学生に負けたら恥だぞwww
>>今、ひとりフラグを立てたやつがおるな?
とまぁ、俺のはじめての雑談配信はそんな感じだった。
正直、勉強配信なんてVTuberの需要とは噛みあっていると思わない。
どちらかといえば、癒しやダラダラと見れるものの需要が多い。
だから、そんなに伸びないだろう、と期待もしていなかったのだが……。
――異変が起こったのはその1時間後だった。
きっかけは1件の引用トゥイート。
『学力テストめっちゃおもしろそーじゃん! あたしも参加する姉ぇっ☆ ま、リアル小学生に負ける姉ヶ崎モネさまじゃないけどっ!』
そこから連鎖するように『わたしも』の声が続いた。
最終的に10名近いメンバーが学力テストの並走を表明した。
トゥイッターのトレンドに『VTuber学力テスト』が上がった。
ここまで来るともはや一大イベントだ。あー姉ぇに「いっそ本格的なコラボ企画にしてしまったほうがいい」とアドバイスをもらい、そして――。
* * *
――『第1回VTuber学力テスト』が開催された。
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