第11話

「自分が具合悪いことに気づかないなんて、ほんっと、ぼうっとした子なんだから」


 ほたるの額の冷却シートを交換しながら「しかもインフルエンザって。もう随分前に流行は収まったのよ。身体までぼうっとしてるんだから」とほたるの母がぶつくさ言う。


 今日は随分温かい日だな、と思っていたのは熱があったからで、クラス替えで仲良しのさなえちゃんとももちゃんと離れたショックで身体がズンと重いと思っていたら、熱があった。綺麗な転校生に見惚れて出した鼻血は、高熱でのぼせたせいだった。


「我が家はひいじいじを筆頭にお年寄りが三人もいるから、ほたるは隔離ね」

「え~~」

 熱が上がりきっているせいか、身体はダルいけれど案外元気なほたるは「テレビみたいのにぃ」と口を尖らせる。


 ほたるの母は「バカ言ってないで寝なさい。あとで温玉入りの味噌煮込みうどん作ってきてあげるから」と、ほたるの頭を軽く撫でて部屋を出て行く。


 いつもは「宿題しなさい」とか「予習しなさい」とかガミガミうるさいほたるの母も、ほたるがケガや病気をすると急に優しくなる。その奇妙な現象をさなえちゃんとももちゃんに話したら、二人のお母さんも同じだと言っていた。それでこの現象をお母さん七不思議の一つとして認定したのは去年のことだ。


 三人で考えたお母さん七不思議は、七つ以上ある。みんなに共通するものとそうでないものがあった。そうでないものは……。


 ほたるの母は勉強にうるさい。さなえちゃんのお母さんは挨拶にうるさい。ももちゃんのお母さんはお掃除にうるさい……で、……などと、つらつら考えているうちに、いつしか眠りについていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る