第43話 alias-2
一瞬浮かんだ下心満点の邪な考えを早々に畳んだ。
罪悪感からではない。
我慢できなくなった歩実が自分に縋りついてくる映像が頭を過ったからだ。
酔った彼女がカウチソファーの上で最中に寝落ちしてしまった翌朝、不完全燃焼なままほぼ徹夜状態で耐えて堪えて過ごした槙は、遠慮なしに寝起きの歩実を美味しく頂く事にした。
寝ぼけまなこで落ちてきたキスに応えていた彼女は、途中でしっかり覚醒しきっている槙の身体と押し当てられた熱量に気づいて驚愕していた。
あの状態で放置されるとどれくらいキツイのか身をもって体験してもらおうと挑んだ結果、グズグズになった歩実は槙の肩に縋りついて何度も爪を立てた。
・・・・・・多分あれが一番ヤった朝だな。
防音の部屋いっぱいに広がる歩実の嬌声を飲み込むみたいに唇を塞いで、肩や背中に鋭い痛みが走るたび柔らかい奥を突き上げた。
腰を使うたびに絡まって来る素直な身体が可愛くて、彼女が従順で居てくれるのはベッドの中だけなのだと理解したらさらに滾って大変なことになった。
いまあの時みたいに仕掛けたら、後で本気で怒られるだろう。
お互いの部屋を行き来するようになって、歩実が槙の部屋に泊まりに来る夜も増えた。
最近の週末はほとんど槙の部屋で一緒に過ごしているし、となると当然歩実の体調に問題が無ければ、キスの先の行為に及ぶわけで。
槙の部屋のダブルベッドで歩実がぐっすり熟睡している様子を見る事にも慣れた。
が、残念ながらまだこの部屋でそういうコトをした事は無い。
歩実が全力でそういう雰囲気にならないように仕向けてくるからだ。
してもせいぜい挨拶程度のキスが限界である。
両手を上げたままの彼女の顔を覗き込んで、軽く顎を引き寄せて唇を重ねる。
チュッと軽く吸ってから下唇に強く吸いつけば、歩実が小さく声を漏らした。
「・・・んっ」
「口開けて」
「・・・・・・やだ」
「なんで・・・キスはちょっかいに入んないだろ」
「・・・・・・だって宗吾、最初絶対キスからだもん」
「なにが?」
「イ、イチャイチャする時・・・・・・」
指摘されて自分の癖に気づいた。
そう思ってみればいつも最初はキスをしてから身体に触っている気がする。
唇へのキスが一番歩実の反応が良いせいだ。
息苦しそうにする彼女の吐息を聞いているとだんだんその気になって来て、その頃には歩実もすっかり表情が蕩けているので流されてくれやすいというのもある。
槙の部屋に居る時は、その後で、する?と確かめて頷いた彼女をベッドルームへ連れ込むのが常だった。
「え、そう?なんか無意識だったわ。嫌だ?」
「嫌じゃないけど・・・」
「じゃあいいじゃん・・・もう仕事終わったし。マニキュア乾くまで時間かかるし」
逃げた顎をもう一度引き寄せて、今度は上唇を強めに吸って、柔らかい内側の粘膜をぺろりと舐める。
途端、歩実がびくんと肩を震わせた。
反応が良すぎる。
だから調子に乗ってしまうのだ。
「んぅ・・・っそ、そうじゃなくって!」
眉根を寄せた歩実が相変わらず両手を上げたまま睨みつけてきた。
「なに?」
「・・・・・・・・・気持ち良くなったら困る」
全く困らないし、むしろそうなって貰いたい。
返すこちらも真顔になった。
恋人同士が一緒の部屋にいてキスをして気持ち良くならない方が異常である。
「え、なんで?出来ない日?」
前にお腹痛いって言われたのいつだっけ・・・?
思わずテレビボードのカレンダーを振り返ろうとしたら、歩実が器用に指を逸らして手のひらで軽く肩を叩いてきた。
「ちがっ・・・生理はまだ先!じゃなくて、壁!薄いの!そっちの部屋と違って」
「ああ・・・・・・声ね。そんな凄い事しないって。して欲しいなら口押さえてやるけど?」
「バカバカバカ!大体私部屋にアレ置いてないし!」
「・・・・・・ああ・・・・・・・・・あー・・・そっか」
ついつい自分の部屋のような感覚で仕掛けようとしてしまったが、この部屋で歩実を抱いた事は無いし、アレはベッドルームのサイドボードの抽斗の中だ。
「持ってくりゃ良かった」
「おい!」
「こっち置いといていい?念のため」
「はあ!?なんの念のためよ!しないから、ここではしないからね」
断固拒否しますと胸を逸らす彼女の額にキスを一つ。
こんなことでほだされてくれるとは思っていないけれど、歩実が自分とのキスもその先のコトも好きなことはもう分かっている。
「んーじゃあ、こっちでシたいときは持ってくるわ」
「だから・・・」
「途中から意識朦朧としてるくせにそんなこと考える余裕あんの?」
いつも舌足らずで名前を呼んで普段の倍の可愛さで縋りついてくるのは歩実のほうだ。
にやっと意地悪く笑った槙に向かって歩実が不貞腐れた顔で言い返す。
「・・・・・・・・・コーヒー入れて来て」
「逃げ方が雑」
小さく笑って今度は後ろ頭を引き寄せて唇を重ねたら、歩実はすぐに大人しくなった。
緩やかに舌を絡ませて気持ちいい強さで舌裏を擽ってやれば、折り畳みテーブルの上に乗せた指がもどかしげにうごめく。
「歩実・・・ゆーび」
ネイルがヨレると指摘してやれば、必死に指を伸ばして歩実が堪える。
その隙に頬裏を擽れば、脳髄を蕩けさせるような声で名前を呼ばれた。
「んぅ・・・・・・っゃ・・・っン・・・しゅー・・・ご」
「・・・ごめん、もう無理だわ」
脇の下に腕を通して彼女を抱き上げると、短い悲鳴と共に歩実がいつものように縋りついてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます