五百年封印されてたら日本が異世界になってた

泉 和佳

第1話 封印

 あぁ。もう、指一本動かない……。


 メシ?


 山で猪を喰ったきりだ。


 畜生!! 俺は獣を猟って生きてただけなのに……。


「皆の衆!! 篤と見るがいい!! 此れなるは山に巣食いし邪な妖怪!! 我が今! 退治して進ぜよう!!」


 邪だと!?

 村の女に片っ端から手ぇ出しとったお前が邪じゃいっ!!!


 おっ母に言われた通り、オイラ獣だけ喰って畑も荒らさず、マタギの振りして普通に暮らしとっただけじゃぁ……。


 なしてこげぇな目に合う!!


 寿命が人より長いけぇから、ばれんよう、あっちの山こっちの山、転々として生きとったぁ……。


 妖怪の縄張りを避け、鈍ちんの人間と適度に付き合って、細々と生きとっただけじゃ。


 おっ父は誰か知らん妖怪で、人間のおっ母は俺を憎いながらも、情けをかけて育ててくれた。


 おっ母!!!


嵐壊らんかい! オメェを憎く思うた事とは数しれぬ! じゃが、可愛いと思うたこともある。じゃから、人に仇なす事だけはするでない!!』


 嵐壊は耳に木霊した母の遺言を、涙ながらに恨んだ。


 言う通りしたよ!! でも……。

 俺は嫌われ者じゃった!!!


 インチキ山伏が、本物の霊験あらたかな御札を掲げ、嵐壊の額に押し当てた。


 すると、嵐壊の体は岩に吸い込まれてゆき、仕舞には岩の中に完全に入ってしまった。


 すると、声が聞こえた。


「可哀想……。可哀想ねぇ……。」


 可哀想言うとらんで助けてくれぇ!!

 俺は何も悪ぅない!!


「うーん。じゃぁ眠ってみる? 誰か起こしに来るまで……。」


 え……―――――――――?


「おやすみ。」


 意識が途絶えた。


 2022年。令和4年。


 一台の小型トラックが搬入された。


荼吉尼だきにさん。何スカこれ。」


 のっぺり顔の青年が、メリハリボディの眼鏡美女に話しかけた。

 荼吉尼と呼ばれた女性は、


「長野県の山奥神社から発見された。妖力波が測定されたんで、ウチで調べることになった。変態ヴァンパイアにかかれば、何かわかるだろ。」


 すると、


「あ~んっ♡ 荼吉尼チャンのお胸、今日も最高♡」


 荼吉尼の後ろから、顔の緩みまくったブルネットのウェーブ長髪イケメンが……荼吉尼のたわわな双丘を持ち上げていた。


「…………キサマ。」


 荼吉尼の目にギラッと凶暴な眼光が一閃し、次の瞬間……。


 ドンッ……メリメリっ!!!!


 ガッッシャーンッ!!!!!!!


 荼吉尼がドラゴンスレイヤーみたいなデッカイ剣を持ってその辺を破壊した。

 タイルはめくれ上がり、天井は落ちかかってる。


「あーあ。こないだ直したばっかりなのに……。」


 ウェーブ長髪イケメンが剥がれたタイルを指でつまみ上げて言った。


「アンタのせいでしょう!? アルさん!! て言うかっ! ヴァンパイアはもっと紳士的でシュッとしるもんでしょう!? 神秘的っていうか!!」


 のっぺり顔の青年が叫んだ。


「あー、映画とか、アニメとかはそうだよねぇ。本場に行くと長老はそんな感じで、頭カチンコチンだよ?」


 ヘラヘラ笑うヴァンパイア。

 その後ろで、土煙を巻き上げユラリと荼吉尼がドラゴンスレイヤーを振り上げた。


「ご託はいい……。今すぐお前を殺してやるっ!!!!!!」


 ヴァンパイア避ける。


 そして、先程搬入された岩が砕け散った。


「あーっ!!! 僕の研究サンプル!!!!」


「そっち!!!??? (事務所半壊してるのに!?)」


 青年が突っこんだ。


 すると、岩から光が放たれ、中から……。


獣耳ケモミミ……。」


「犬?」


「えーと……。

 これは……半妖ですよね? 匂い的に……。」


 犬の尻尾と耳がついたガリガリの青年が、岩の中から出てきた。


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