09話

「あんた遅いわよ、私はずっと待っていたんだけど?」

「ごめんごめん、お、猫ちゃんも元気だね」

「当たり前でしょ、寿命以外のことで弱らせたりなんかはしないわよ」


 猫ちゃんの頭を撫でてからこちらを見てきた彼女の目は依然として冷たいままだ。

 お祭りの日に会ってからそう時間も経っていないのに中々に厳しい。


「で、なんでそいつもいんのよ?」

「さっき偶然会ってね、一緒に行かないかって誘ってみたんだ」

「で、なんであんたはくっついてんの?」

「桒原さんを見るとこうしたくなるんだよ」

「暑苦しいからここではやめなさい」


 あたしにとっては友達でも二人にとっては違うからこういうことになるのか。

 でも、こういう機会を利用して仲良くなってくれればそれでいいからぺちゃくちゃ喋ったりはしないようにした。

 多分、黙っていた方が上手くいく、お喋り好き同士なら一時間も経過しない内に友達みたいになっている……と思っていた自分、


「かな、あんたの足は相変わらずいいわね」

「桒原さんの腕も好きー」


 二人ともあたしに話しかけてくるばかりでお喋りをしようとはしてくれていないのが現状だった。


「少なくともいまは私専用の足よ」

「いつもは違うの?」

「まあね」


 お、恋愛方向に持っていけばこうなるのか。

 ただそれこそぺちゃくちゃ自由に話すわけにはいかないからどうしたものかと悩む羽目になった、少なくとも足を好んでいる彼女はあたしのことが好きだから聞いたところでという話だ。

 というか聞くべきではない、仮にもう捨てていたとしても弄ぶようなことはしたくないからね。


「そういえば桒原さんと一緒にいたあのお姉さん、どこかで見たことがある顔なんだよね」

「そう? かなの親戚だからかなに似ていただけじゃない?」


 そうそう、親戚ということになっているのだ、これは彼女がすぐに出してくれたものでそのまま利用させてもらっていた。


「あと声も、聞き覚えがあるんだよねぇ」

「女の人なんてみんなあんな感じでしょ、かなだってちょっと低いだけで同じようなものよ」

「そっか、私の考えすぎかぁ」


 髪型をなんとか変えているだけで顔も声も変えられるわけではない、生徒と遭遇しそうな場所で遊ぶのはやはり危険だ。


「そんなことよりもいまはかなに集中しておいた方がいいわよ、少なくとも夏休みはもうこうして来ることもないでしょうから」

「え、あなたでそのレベルだったら私はもっと無理だ」

「そんなことはないよ、呼んでくれればちゃんと行くから」


 あの家にずっといたところでみさとがいない日の方が多い、そうなると寂しくなるから誘ってくれるということならありがたかった。

 ずっと走るというのは現実的ではないからね、あと、夏に無理をするとそこら辺で倒れそうだからやめておくべきだ。

 

「じゃあ毎日呼ぶっ」

「ちょっ、そんなことはさせないわよっ」

「なんでっ」

「私が嫌だからよっ」


 集まるときは三人で集まることにしようと決めたのだった。

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