カレー派VSハヤシライス派
自分達で料理を作るなら、メニュー選びは戦いだ。自分の好きなものが食べたいならその食べ物をアプローチし、自分のメニューが選ばれる為なら他人の意見にいちゃもんを付ける。メニュー選びが戦いという意味がわからない人もいるだろう。だが、この状況を見ればメニュー選びがどれだけ無慈悲な戦いかというのがわかる。
「私はハヤシライスが食べたい!」
「カレーの一択だろ!!」
机に両手をつき、前のめりに意見を発する勇と紗夜は、どちらも一歩も下がるわけには行かないようで眉間にシワを寄せて睨み合っていた。
なぜこんな状況になったのか、その理由は至って簡単。勇が晩御飯の支度をするときに家にあるもので済ませようと「カレーでいいか?」と聞くと、紗夜が「ハヤシライスの素はないの?」と質問を質問で返した。一応はある、と答えた勇は手にとって見せる。それがトリガーだったのだろう。カレーが1番の好物である勇とハヤシライスが1番の好物である紗夜がぶつかってしまったのは。
「カレーなんてドロッとして口残り悪いだけじゃん!」
「そのドロッとしたのが良いんだろ!ハヤシライスなんてベチャベチャの水っぽくて気持ち悪いだけだろ!!」
「はぁ!?それが良いんじゃん!子供!!」
「どうせお前はカレーの辛いのが食えないだけだろ!?子供が!!」
どう転がっても子供ということに定義付ける勇と紗夜。そんな2人の横では苦笑を浮かべる妹弟が年上2人の様子を見ていた。
(妹の前で恥ずかしくないのかぁ?)
(弟の前で恥ずかしくないのかぁ?)
同じことを思う千咲と匠海は口でも同じ発言をする。
「「どっちでもいいよ……」」
その言葉に対し、譲れない思いを持っている勇と紗夜は、
「「どっちでも良くない!!」」
と千咲と匠海に続いて同じタイミングで同じ言葉を発した。
さすれば必然的に敵同士である2人は同じ発言をしたことが鼻につき、キッとまたもやお互いを睨みつけ合う。
「ハヤシライスなんて家でいつでも食えるだろ!」
「そんなこと言ったらカレーもいつでも作れるじゃん!」
「……いや、お前料理作れないから無理か」
「頑張ったらできるって!!!!」
いきなり素に戻ったかと思えば、紗夜を煽る言葉を口にする勇は顎に手を当て、自己解決したかのようにふむふむと頷く。
そんな事を言われれば当然紗夜も怒り、声を荒らげてしまう。だが、勇の隣に座る匠海も確かに、と呟いて頷き出す。
「姉さん料理作れないんだから決定権はないでしょ」
「なっ!匠海までそんな事言うの!?」
「ふっ、俺の勝ちのようだな」
「まだ決まってないー!!」
鼻を鳴らして椅子に座る勇を強引に立たせようと、椅子の後ろに回り、脇に手を通して持ち上げる紗夜。
だが、筋肉のない紗夜には男子高校生を持ち上げることなど到底不可能で、またもや勇に鼻を鳴らされてしまう。
「自分の筋力がないことも考えろ?」
「これぐらいなら行けると思ったもん……」
「残念。じゃ、カレーってことで――」
カレーと決まるときだった。紗夜の横に座っていた千咲が腕を組み、勇の言葉を遮って一発逆転の言葉を口にしたのだ。
「――なら、一緒に作れば良いんじゃない?そしたら星澤さんも一緒に作ってることになるし、ハヤシライスでも良いんじゃない?」
突然の千咲の裏切りに目を見開く勇。だが、心のどこかで乗り気な感情がスッと勇の目を逸らしながら口を開かせた。
「まぁ……それならいいんじゃね?俺優しいし、コイツと違って嫌いなものないし?」
「ほんと!?やった〜ハヤシライスだぁ〜」
ツンとした態度で言うのに対し、素直な気持ちで喜びを見せる紗夜は「ありがと〜」と勇にはにかんだ。
(――って俺!なに言ってんだ!?なに譲ってんだ!?おい俺!前まではそんなヤツじゃなかっただろ!どうしたんだ!?)
自分に問いかける勇だが、当然答えなど返ってくるわけなく、物理的に頭を抱えだす。そんな勇はよそに、喜びに満ちた紗夜はスキップに似た足取りでキッチンに向かっていだす。
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